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――いや、ちょっと待って……。
妙な違和感を覚え、橘は破片の落ちている箇所を今一度確認する。
――火災の発生しているこの状況で、どうして、床に落ちている破片が確認できる?
そこで漸く、彼女は気が付いた。破裂音の響いた箇所で燃え盛っていたはずの炎が、何時の間にか完全に消え失せてしまっていることに……。
「しっかりしろ、九条」
九条にだけ聴こえる声で、伊勢が囁く。どうやら橘が破裂音に気を取られている隙に、此処まで移動してきたらしい。
「何してる、伊勢。早く逃げろ……」
「馬鹿。そんな状態のお前を放っておけるか」
そんなことを言いながら、彼女はその小さな体を素早く九条の腕の下に潜り込ませると、彼の体を支えながら立ち上がり、窓際の方へと向かって移動を開始する。
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