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26話
「少し待っててくれるか。」
「はい。」
ベッドに由香を座らせて、チェストの引き出しを開けに行く。
中には、少し前に入れておいた派手めなパッケージの箱がある。
いつか来る時の為にと先に買っておいて良かった。
ただ、由香に見えると緊張させるかもしれないな。
手に取ったそれを、念のため見えにくそうなサイドテーブルに置き、由香の隣に腰を下ろした。
重みでベッドの軋む音が聞こえて、更に緊張が高まる。
今から俺がやるべき事は、その①由香に恐怖心を与えない、その②緊張を解す、その③痛みは最小限にする、その④暴走しない。
4つ目だけちょっと自信が無いが…由香の為だと言い聞かせるしかない。
「由香、おいで。」
両手を少し広げて待っていると、緊張気味の硬い表情のまま由香が近付いて来る。
抱き締めると、体もガチガチに硬い。
まあ、流石にそうなるよな。
俺も緊張しているが、由香を抱きしめていると不思議と少しリラックスしてきた。
「…由香、深呼吸してみろ。ちょっとは力が抜けると思う。」
頷いた由香が、息を吸いこんだのが分かった。
何度か深呼吸を繰り返すと、硬かった体から力が抜けていく。
「結城さんの匂いがする…」
「…どういう匂いなんだ?」
おっさん臭とかじゃなければいいが。
正直怪しくなってくる年齢ではあるんだよな…
「…安心する匂いです。」
「おっさん臭とかじゃなくて?」
「ふふっ。全然違います。」
「それなら良い。」
由香が安心するなら、匂いでも何でも利用出来るものはしてやろう。
「最後の確認だが…怖くなってないか?」
「少しは怖いですけど…結城さんとなら大丈夫です。」
「…なるべく痛くないようにはするが、我慢できない時はちゃんと言えよ。」
「…はい。」
返事を聞いて、キスをしながら由香をそっとベッドに寝かせてやる。
何度もキスを交わしながら、怖がらせないように最初は服の上から触れてみた。
抱き締める事はあっても、こんな風に触れた事は無かったが、服越しでも柔らかさが伝わってくる。
しばらく服の上からの刺激を続けていると、由香がもどかしそうな声を漏らし始めた事に気付いた。
そろそろ進んでも良さそうだ。
「…服、脱がしていいか?」
「はい…」
シャツを捲りながら、自分の手が緊張で微かに震えているのに気付いた。
女の服を脱がすのも裸を見るのも当然初めてでは無い。
それに、もう記憶も曖昧だが、恐らく初めての時でもこんなに緊張はしていなかった。
相手が大切だとこうも変わるのかと驚いていると、由香が両手で体を隠そうとしている。
「由香、隠したら見えない。」
「だって…やっぱり恥ずかしいです…」
「…隠してもいいけど、触るぞ。」
隠している胸にまず手を潜り込ませると、それ以上の抵抗は無い。
素肌に触れるのは初めてだが、ずっと触っていたくなる感触だ。
「力強いか?」
首を軽く横に振る由香の顔は、恥ずかしさからか真っ赤だ。
少しづつだが反応し始めている事に、自分でも気付いているのかもしれない。
「ん…ふっ…」
「声、我慢しなくていいぞ。」
「で、も…」
「俺は聞きたい。それに…どの道我慢出来なくなると思うぞ?」
「え…?あっ…そっちは…」
「こっちをちゃんと慣らさないと、由香が辛いだろ?」
分かってはいても恥ずかしいというのが、表情だけで伝わってくる。
「ゆっくりするから…痛かったりしたら教えて。」
「はい…」
由香がちゃんと反応しているのを確かめながら、ゆっくり少しづつ先へと進めていく。
「あっ…ん~っ…」
「痛くないか?」
「大丈夫っ…」
「無理はするなよ。」
痛そうな表情はしてないから大丈夫だとは思うが。
それにしても…さっきから由香にかなり刺激されていて辛い。
俺がここで暴走するわけにはいかないが、正直理性が飛びそうだ。
「はっ…ひぅっ…」
「由香、可愛い…」
ゆっくりゆっくり痛くないように解していく。
由香の呼吸がどんどん荒くなっていくのが分かる。
キスをしたり頭を撫でたり…色々しながら痛みを少なくしようと始めた行為に、由香がとうとう音を上げた。
「はぁっ…結城さ…もういいですから…っ」
「だが…」
「もうこれ以上は体がおかしくなる…っ」
…ちょっとじっくりやり過ぎたらしい。
「準備するから、少し休んでおくといい。」
息が荒くなっている由香を休ませている間に、自分の服を脱いで準備を済ませる。
「少しは落ち着いたか?」
「はい…」
「ゆっくり入れるから、体の力はなるべく抜いておけよ。」
由香が頷くのを見て、1度大きく息を吐き出す。
俺が緊張して力を入れている場合ではない。
「行くぞ。」
音を上げる程じっくり準備したとはいえ、多少の痛みはどうしてもあるはずだ。
由香の表情に気を付けながら、時間をかけて中へと進んでいく。
「痛くないか?」
「まだ大丈夫です…」
痛そうではあるが、由香の言葉を聞いてそのまま進めていく。
少しして、一番抵抗を感じる場所に辿り着いた。
いよいよだと、思わず息を飲む。
「…由香、キスしよう。痛かったら爪を立てても引っ搔いてもいいから。」
何となく察したらしい由香は、何も言わずキスを受け入れてくれた。
徐々にキスを深めながら、少しだけ力を入れて押し入る。
「んぅっ!」
由香が痛みを感じたであろう同じタイミングで、俺の背中にもピリッとした痛みが走った。
「…由香、大丈夫か?痛かったよな。」
「…思ったよりは痛くなかったですし、何より…初めてが結城さんで良かったです。」
痛みのせいか薄っすら目に涙が浮かんでいる。
それでも、笑ってそんな事を言う由香が、可愛くて好きで仕方がない。
由香の初めてが、過去の男に奪われていなくて本当に良かった。
「あっ…んんっ」
「由香…好きだ…」
「ひゃああっ…」
由香の痛みが一旦引いた後の俺は、半分暴走しかけていたのかもしれない。
それぐらい、由香を感じたくて仕方がなかった。
「はっ…由香、愛してるっ…」
「結城さ…っ」
俺の人生で言う事はないと思っていた言葉。
それがすんなり出てきた事に、もう驚きもしなかった。
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