31話

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翌日、次の週末が丁度月命日に近いという事で、俺は由香と弟と一緒に車で1時間程の場所にある彼女の実家へ行く事に決めた。 ほんの数分前に食事をしながら、実は来週会えなくて…と言った由香を思い出して苦笑する。 やっぱりと言うべきか、眠りに落ちる直前の俺との会話は覚えていなかったらしい。 「由香の家族に会えるの楽しみだ。」 「弟には結城さ…慎也さんの事話してあるんですけど、お母さん達は何も知らないからビックリしちゃうかもしれないですね!」 焦った様に名前を言い直した辺り、どうやらまたキスマークを付けられるかもと警戒しているようだ。 隣に座る由香の首元から見え隠れする幾つかの赤い痕。 今朝鏡を見た由香が、これどうやって隠すんですか!と、困り果てていたから、見える所にも付けた事は流石に反省してるんだが… そこに触れるのはまずい気がして、そのまま話を続けることにした。 「…お母さん達は俺の存在を知らないのか?」 「はい。自分から彼氏が出来たよって言うの、恥ずかしいじゃないですか。弟の場合は、あの日の事があったので話しやすかったんですけどね。」 まあ確かに、恋人が出来たぐらいで親に話したりはしないかもな。 「でも、帰るまでに連絡しなきゃですね。一緒に帰るよって。」 「そうだな。そうしてくれると嬉しい。」 「あの…慎也さんの方はいいんですか?」 「ん?今度由香を連れて母親達の墓参りには行こうと思ってるぞ。」 「いえ、そうじゃなくて…」 箸を置いた由香が何か言い淀んでいるのを見て、ある事に思い当たった。 「ああ…そっちか。」 「結婚は大事な事ですし…」 親であれば連絡するのが普通なんだろう。 縁を切ったと口では言っても、本当に親子関係が切れたわけでは無い。 「…会いには行かない。」 「でも…」 「そんな顔するな。会いには行かないが、何かしらの方法でちゃんと連絡はする。」 「本当ですか?」 「ああ。」 会いになんて行ったら、跡取りや財産を狙っていると思われかねない。 こっちにそんなつもりは更々無くても、家を出てから10年以上も音信不通だった俺が突然現れて、しかも結婚すると言い出せば、恐らく勘ぐって誹られるはずだ。 特に再婚相手の女は、明らかに金目当てだったから充分有り得る話だろう。 俺だけならまだしも、由香にまで口汚く言われたら正直何をするか分からない。 本当は面と向かって、あんたの様にはならないと言ってやりたい気持ちもあったが、由香にそんな醜いやり取りは見せたくないし、酷い言葉も聞かせたくない。 「結婚式の招待状でも送り付けるかな。」 「…来てくれるといいですね。」 由香には悪いが、来ないだろうな、絶対。 返信すら無いだろう。 「それより、今日はどうするんだ?体が辛いようなら家でのんびりするか?」 空気を変えるように声をかけると、それを察した由香は、そうですねえ…と悩み始めた。 「というかですね…誰のせいで体が辛いか分かってます?」 「ん?由香のせいだろ?」 「何で私のせいなんですか。」 「由香が可愛いのが悪い。暴走するなって言う方が無理だ。」 それに昨日は…特別だった。 由香の左手に指を伸ばして、薬指に嵌められている指輪を撫でる。 目覚めてから何度もこれがそこに付けられているのを確認して、昨日の事が夢では無かったと安心した。 「…少しは手加減してくださいね?じゃないと、体が持ちません。」 「…なるべく頑張る。」 何にも安心出来なさそうな俺の言葉を聞いて、由香が苦笑している。 「それで、今日のご希望は?」 「お家でのんびりしましょうか。明日は外にお出かけしたいです。」 「…それは、今夜への牽制か?」 「はい。」 ふふっと笑っている由香は、やっぱり可愛い。 「なるほど。…昼間なら良いって事だな。」 「何か言いました?」 「何でもない。じゃあ、ベッド行くか。」 「え?何でベッド…」 問答無用で由香を抱き上げると、目を白黒させて驚いている。 「あの、慎也さん?」 「のんびりするんだろ?」 「そうですけど…」 「だったら、ベッドが一番だろ。体辛そうだし、運んでやる。」 「別にベッドじゃなくてもっ…慎也さん、聞いてます?」 そう言えば前に和暁が、休日は嫁を抱き潰すせいで出かけられていないと言ってたな。 …俺、本当にあいつに似てきてないか。 何かを感じ取った由香の焦った声を聞きながら、そんな嫌な事を確信していた。
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