32話

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弟を自宅へ送り届けると、時刻はもう夕方。 俺達は2人である場所へと向かっていた。 併設されている駐車場から歩いて行くと、あまり暗い時間には来たく無い景色が見える。 まだ明るい時間に来られて良かった。 「ここに、慎也さんのお母さん達が?」 「ああ。足元危ないから、手貸して。」 由香の右手を握り、奥にある母親達が眠る墓の前へと歩いて行く。 前回来たのは1ヶ月前。 簡単に掃除もした方がいいかもしれない。 「…ん?」 「どうかしました?」 「いや…ちょっと違和感を感じただけだ。」 「違和感?」 墓に近づく程にその違和感が増していく。 「誰かが掃除したのか…?」 1ヶ月も来てなかった割には、綺麗過ぎる。 「他の方がお参りに来られたとか?」 「親族はもう殆どいないし、基本的にここに来るのは俺だけのはずだが…」 知人の可能性もあるだろうが、こんな事は今まで無かった。 妙な違和感を覚えたまま、由香と2人墓前で手を合わせる。 まさか結婚の報告をする日が来るとは思わなかった。 少しだけ親孝行が出来たような、そんな不思議な気分だ。 「お会いしてみたかったです。慎也さんのお母さんに。」 由香なら、母親も間違いなく気に入っていただろうな。 「俺も会わせたかった。由香とは気が合ったと思うぞ。」 そう言うと嬉しそうにしている。 「…そろそろ帰るか。これから色々決めないとな。」 「忙しくなっちゃいますね。」 大変そう、と言いながら顔は楽しそうだ。 「まずは今から何食べるか決めるか。」 「本当ですね。今日はどうしましょうか。」 外食にするか買い物に行くか… そんな話をしながら、少し薄暗くなり始めた道を急いだ。
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