33話

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33話

あれから、あっという間に半年が経った。 今日は、俺と由香の結婚式当日。 日取りを決めた時はまだ半年もあると思っていたが、準備に引っ越しにと慌ただしくしていたからか、この日が来るのが早かった。 式の20分前になり控室で待機していると、ドアのノック音が聞こえてきた。 「はい。」 「当日を迎えた感想はどうだ?」 「お前かよ。」 ドアを開けた先に立っていたのは和暁だった。 「随分な言われ方だな。緊張を解してやろうと思って来たのに。」 「別に緊張はしてねえよ。」 「まあそうだろうな。」 何しに来たんだこいつは。 「それで…父親は出席するのか?」 「いや。諸事情により欠席すると返信が来ていた。」 返信が来るとは思っていなかったからまずそこに驚いたが、来ないだろうという予想は当たっていた。 由香が悲しそうにしていたのは申し訳なかったが、出席だったら更に驚いただろうな。 和暁と話をしていると、再びノック音がして少し溜め息が出た。 案外忙しいな。 「はい。」 「結城さん、失礼します。…あ、社長がいらしてたんですね。」 「何か急ぎの用事があるから控室まで来たんだろう?構わないから話しなさい。」 受付を頼んだ部下が、和暁の言葉を聞いて一歩室内へ入る。 「実は…今来られた方がこれだけ置いて帰ってしまわれて。お名前を聞いたんですが、名乗らない方がいいだろうから、と。」 彼女が差し出したのは、祝儀袋だった。 「どんな感じの人だったか覚えてますか?」 「そうですね…50~60代ぐらいの男性の方です。質の良いスーツをお召しだったので招待された方だと思ったんですが、自分には参加する資格は無いから、と。」 「…慎也。」 「…」 和暁が小声で呼びかけて来るが、俺はしばらく上の空だった。 …まさかな。 「…その人は、今来たんですね?」 「はい。ほんの2~3分前です。」 「分かりました。…少しの間ここを離れますと、式場スタッフの方に伝えておいてください。」 それだけ言い置いて、俺はすぐに駐車場へと向かった。
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