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「慎也、例の噂の出処とあの女について早急に調べる必要が出てきた。」 そう電話がかかってきたのは、和暁を自宅へ送ってから10分も経っていない頃だった。 「どうしたんだ急に。何かあったのか?」 「知亜希の様子がおかしい。」 「…は?」 嫁の様子がおかしいのと何の関係があるんだ? 「何かを隠しているようなんだ。もしかしたらあの女が既に何か行動していたのかもしれない。」 契約で結婚した相手だというのに、本気で好きになってしまったらしいこいつは、嫁の事になると人が変わるようだ。 いつもなら冷静な判断が出来るはずだが、一体どうしたっていうんだ。 自分が契約結婚だって事忘れかけてるんじゃねーか? 「…契約で結婚した旦那になら、隠し事の1つや2つあるだろ。」 「笑顔も無かったんだぞ。」 「女は気分屋だから笑顔ぐらい無いことだって…」 「慎也。」 「あ~…はいはい。分かったよ。調べればいいんだろ。ったく…お前がここまで女に入れ込む日が来るとは思わなかったわ。」 まあどっちにしろ俺も調べるつもりだったしな。 和暁が言うように陥れようとしている人間がいるかはまだ分からないが… 何かしらの目的と悪意はあるはずだ。 そうじゃなければ、あんな噂が突然降って湧いてくるわけはない。 あの女についても、このタイミングで現れるのは確かに妙だ。 和暁はあまり疑っていないようだが、嫁と仲が良かったという女子社員は噂の出処として疑うべき相手だろう。 同期の女子社員が結婚するっていうだけでも、あの年齢の女なら思う所があるはずだ。 その相手が社長ともなれば、妬みに繋がる可能性は十分ある。 女同士なんて、腹の中では何を考えてるか分からない。 口ではおめでとうなんて言いながら、心の中ではどす黒い感情を持っていたりするもんだ。 和暁の話じゃプライベートな事も相談するぐらい仲が良かったようだし、契約結婚の事を知っていた可能性だってある。 ただ1つ疑問があるとすれば、あいつの嫁が寿退社してしばらく経っているのに、今更こんな噂を流すことに何のメリットがあるのかだな。 女同士の単純な嫉妬なら、本人がいる時の方がダメージは大きかったはずだ。 和暁を陥れたい人間と結託している可能性も無いとは言えないが… 何にしろ男が絡んでる可能性は高そうだ。 「三好由香か…」 うちの女子社員で俺が知らないってことは、良く言えば大人しい、悪く言えば地味なんだろう。 …そういえば、和暁の嫁もそういう系だったな。 あいつの前では口が裂けても言えないが。 とりあえず三好由香から調べてみるか。 さっきの女は関わると面倒そうだし後回しだな。 あんな噂が流れたところで信じる奴は少ないだろうが、問題の芽は早めに摘んでおくに越したことはないだろう。 ”お前にもいつかそう思える相手が現れる” さっき電話で和暁に言われた言葉を思い出す。 俺にあんなこと言うなんてあいつらしくない。 大丈夫そうに見えていたが、実は酔ってたのか? 俺が本気になる事は無いと、自分が一番よく知ってんだろうに。 俺にはお互い割り切った適当に遊べる関係が一番だ。 …本気になった所で、相手に裏切られたらそれまでだろ。 「あ~…あいつがあんなこと言うから思い出しちまったじゃねーか。」 嫌な記憶を振り切るように、俺はそのまま眠りに落ちていった。
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