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闇夜に沈んだ道を、三木恭太は一人で歩いていた。
塾帰り、時刻はすでに0時前。
いくら高校受験のための勉強だからと言って、課題が終わらなければこんな時間まで帰ることが出来ないなんてのは教育機関としてどうかしていると思う。
特にここら辺は、最近妙な噂が出回っている要注意区画だ。
その噂というのは、地蔵が首を探して彷徨っているとか、変な街に迷い込むと出られなくなるとか。そんな非科学的でオカルトチックな話。
「そんなこと、あるはずないじゃないか」
恭太は自分を鼓舞するために、一人嘯いた。
そんなことがあるわけない。そう口に出て否定してみても、"そういうモノ"が存在しているのは自分自身が一番よく知っていた。
あと、単純に暗い道は怖い。
どうしても今にも目の前の角から何かが飛び出し来て、その先に続く暗闇へ引きずり込まれる場面を想像してしまう。
せめて周りに人がいれば幾分気持ちも楽になるのだが、数分前に女の子を背負った男の人を見たっきり誰ともすれ違うことはなかった。
しかも家に帰るには事故の多い公園の前を通らなければならない。そういえば首を探していると言う地蔵はその公園の物だと聞いたような気がした。
いやだな、怖いな。そう思っている間に公園の入り口が見えてくる。
恭太は出来るだけ敷地内の方を見ないようにして速足で前を通り過ぎた。
何事もなく角を曲がり、ホッとした時だった。前方に何かがいるのが目に入る。
目を凝らして見てみると、街頭の真下に人がうずくまっているようだ。どうやらそれは小さな子供のようで、中学生の恭太よりもさらに幼い感じがした。
こんな時間に子供が一人で何をしているんだろう。自分を棚に上げた思考だが、なんとなく嫌な予感がした。
しかし自宅はこの道を真っすぐ進んだ先にある。
恭太は子供のいるのと反対側に寄りながら、忍び歩きで進んで行った。
子供に近づくにつれて座っているのが男の子だとわかった。男の子はしゃがみ込み、膝を抱えながら泣いている。
親に家から追い出されてしまったのだろうか。それとも迷子になって帰れなくなっているのだろうか。
そんなことを考えながら、恭太は子供の前を通り過ぎ、しばらく背中ですすり泣く声を聴いてから──踵を返して子供に近づいて行った。
「や、やぁ。君、どうかしたの?」
声をかけたのは、ただただ不憫に思ったからだ。立場が逆だったら、とても心細いだろうし誰かに助けて欲しいと思うに決まっている。
恭太の呼びかけに、男の子はびくりと体を震わせてゆっくりと顔を上げた。
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