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男の子の顔は、とても幼い。小学校低学年くらいだろう。
街頭に照らされているからか、夜道が怖いからか、顔色は妙に青白かった。
鼻を啜りながらこちらを見上げる男の子に、恭太は優しく声をかける。
「君、こんな時間にこんな所で何をしているの? お家はどこ?」
問いかけに対し、子供は無言で頭を振った。どうやら迷子のようだ。
恭太はしゃがんで子供に目線を近づけると、もう一つ問いかける。
「えっと、お家の近くに何か目印になるような物はあるかな。例えば……学校とか、広い場所とか」
子供は恭太を見つめながら、小さく「こうえん」とだけ呟いた。
こうえん、公園。その単語を聞いて、思わず振り返る。
一つ角を曲がればすぐそこに公園がある。ついさっき恭太が通過してきたあの場所だ。
広いとは言い難いが、この近くの公園と言えばあそこしかない。
けれど、どうしてこの子はあんな近くにある場所が分からずに泣いているのだろうか。
「その公園って、何があるのかな。ジャングルジムとか、砂場とか?」
その二つはあそこにはない。これらを例に挙げたのは彼の指すのが恭太の思い描く場所ではない事を願ってのことだ。
「おじぞうさん」
お地蔵さんかぁ~……
無情にも恭太の願いは届かなかった。すぐそこの公園で確定、間違いないだろう。
恭太は引き攣った笑顔を浮かべながら「お地蔵さんだね」と返して立ち上がる。
「それなら、そこの角を曲がればすぐだよ。そこまで行けば、帰り道がわかるかも」
言いながら恭太が手を差し伸べると、遠慮がちに男の子は恭太の手を取った。長い間、夜風に晒されていたからか男の子の手は異様に冷たく感じられた。
「じゃあ、行こうか」
声を掛けながら手を引き歩き始める。無言で歩くのは気まずく感じたので、恭太は明るい声音を意識して子供に話しかけた。
「君、名前は何て言うの?」
「……真鍋慎吾」
「慎吾くんだね。僕は三木恭太。よろしく」
「…………」
自己紹介をしている間に角を曲がり、公園の前に辿り着いた。外から眺めてみるが、公園内に街灯は無く真っ暗闇に包まれていた。滑り台やブランコのシルエットが微かに見えるだけだ。
問題の地蔵はここからだと暗くてどこにあるのか分からない。
「お家、どっちだかわかる?」
彼が目印に指名した場所なので、何気なく尋ねてみると慎吾は静かに公園の方を指さした。
「あっち」
それは公園の向こう側である。あちら側に行くにはここを通り抜けないと、かなりの遠回りになってしまう。
嘘だろ……零れ出そうになった言葉を飲み込んで、ちらりと慎吾を見た。彼は微動だにせず、公園を見つめている。
「行くしかないかぁ……」
乗り掛かった舟だ。恭太は半ば諦めて足を踏み入れた。
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