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小さい公園内は、まるで異世界に迷い込んだと錯覚するほどに異様な雰囲気に包まれていた。
何と言うか、静かだ。車や人の生活音はもちろん、虫の音一つ聞こえてこない。街頭で照らされた向こう側の道路がとても遠くに感じられた。
それが恐怖心から来る心理的な物なのか、それとも実際にそうなのかは分からない。
腰が引けて立ち止まりそうになる恭太を置いて、慎吾はずんずんと先へと進んで行く。
慌てて追いかけるが、公園の中腹辺りまで来て慎吾は足を止めた。それに合わせて恭太も立ち止まる。
「どうし……」
問いかけは最後まで発せられることなく、誰の元に届くこともなく暗闇に消え去った。
言葉を途中で切ったのは、慎吾が立ち止まった理由が分かったからだ。
恭太たちの進行方向から逸れた公園の隅っこ、そこに人が立っていた。
ドキンと心臓が跳ね上がる。5メートルほど離れた程度の距離、どうして気が付かなかったのだろう。佇んでいる場所には、噂の首を探している地蔵が祀られている祠があるはずだ。
こんな時間にそんな所で何をしているのか。相手の得体の知れなさに恐怖が込み上げてくる。
ちょうど街頭の光も届かないその場所にひっそりと佇む人影は、辛うじてこちらに背を向けていることは分かった。
数舜、様子を伺っていると向こうが恭太たちに気が付いたのか、突然くるりと身体を反転させた。その時に下半身がふわりと膨らんで、それがスカートだと分かるのに少しだけ時間が必要だった。
「こんな時間にこんな所に来たら危ないわよ?」
女性の声で、その人物は言った。その声はとても大人びている。きっと歳は二十歳を超えているだろう。
「えっと……」
突然そんなことを言われて、何と返せばいいのか言葉に詰まっていると慎吾が後ずさり、恭太の後ろに隠れた。
「あなたはどうしてここに? その子はどこで?」
「えっと……この子を家に送り届けようと思って。そこの道で、蹲って泣いていたので。あなたは、この子の知り合いですか?」
「いいえ。でも、ちょうど探していたの」
そう言いながら彼女が前に出る。街頭の光に照らされて、ようやくその姿をはっきりと視認できた。
暗闇に浮かぶような白い顔は、まるで夜の中で咲いている一輪の花のように美しい。
目鼻立ちのはっきりした顔は整っており、口紅が引かれているのか唇は赤く艶やかな光沢を放っている。服の上からでもわかるように盛り上がった胸の下には、すらりとくびれた腰。
モデルかと思うほどに蠱惑的な美貌を纏うその女の人は、普段なら胸を高鳴らせただろうがこの状況下では恐怖しか生まれなかった。
そんな女性が、こちらに向かって魅惑の微笑みを浮かべている。
その妖艶とも言える雰囲気に呑まれかけたが、恭太はなんとか口を開いた。
「どうしてこの子を探して……?」
恭太の質問に、女性はわざとらしく言い淀む素振りを見せてから、ほほ笑みを携えて言った。
「──消すため、かしらね」
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