夕暮れの街

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 (いぬい)のアパートから椎名の住んでいるマンションまでは徒歩で二十分ほどの距離だった。  幸いにも黒っぽい服を着ていたのと、闇夜に紛れて血の跡は目立たず、特に騒動を起こすことなく帰ってこれた。205号室の扉を開けて中に入る。    玄関の先には短い廊下が伸びており、その先には七畳ほどのキッチンが併設された部屋がある。廊下と部屋を隔てるような扉は無い、少し手狭なワンルームだ。  入り口からすぐの横の位置にあるユニットバスに直行し、服のまま浴槽に入ってまずは上着を脱いだ。  前は無事だが乾が触れたであろう肩や背中の部分は他の部分よりもドス黒く染まっている。洗濯機で洗えば落ちるだろうか。そもそも洗濯機に入れていい物なのだろうか……  服の処理方法は後で決めるとして、椎名は全裸になると浴槽の縁に服を乱雑に置いてシャワーで自身の身体を洗い流す。  サッとシャワーを済ませると、椎名はビショビショのままユニットバスを出て部屋にあるバスタオルで体を拭き、手ごろな服に着替えた。  すぐに乾の元へ戻ろうと思っていたが、自分の部屋にいる安心感からか激しい疲労感に襲われてしまい、立っていられなくなってベッドに腰かける。  一度に色々なことを経験しすぎた。未だに頭の整理が追い付いていない。それどころか、今日の体験は全て夢だったのではないかとさえ思えてくる。  怪異現象や化け物といった、そういうオカルティズム溢れる存在は、椎名には受け入れ難いモノだった。椎名にとってオカルトの類は、嫌悪し、否定しなければならない存在だった。  大きく息を吐き出してベッドに横になる。体がベッドに沈み、再び起き上がることは困難となる。なんとかスマホを充電器に差し込み、天井を見上げた。    少しだけ、眠ろう。一度休んで、頭を冷やそう。  そうして、椎名はゆっくりと瞼を閉じた。
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