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松本は聴講する人々の様子を知ってか知らずか、なおも挨拶を続ける。
「私は文字通り藁にもすがる思いでおいしいカレーライスのつくりかたを書き始めました。コンロの火加減からはじめて玉ねぎを2種類の切り方にすることや、水を使わずにトマトジュースを使って旨味成分を溶け込ませることなど、最高のカレーを作るべく技という技を書き込みました。具材はエビやイカ、アサリなどです。当然、それらの旨味も鍋の中に溶け込みます。磯の香りをしっかりと閉じ込めるように鍋に蓋をしてコトコト煮込み、そして完成。こうして海の幸をふんだんに盛り込んだ具だくさんのおいしいシーフードカレーライスの作り方を完璧に仕上げ、提出期限ギリギリに大学へと持ち込みました」
挨拶を行う松本の表情を見つめながら、船山はどこかしら苦笑いを浮かべているようにも見受けられた。
「そして年が明けて、レポートが返却されました。ところが、私のレポートには0点がつけられていたのです。船山先生は、覚えていますか?なぜ私のレポートに0点をつけたのか」
私は先生に問いかけた。すると先生はハンドマイクを手に取った。
「あぁ、覚えているよ。カレーライスのつくりかた書いてるはずなのにごはん炊いてなかったもんな」
船山が答えた瞬間、会場がどっと笑いに包まれた。
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