はなむけ

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「これで船山先生の最終講義はお開きとなりますが、最後に有志から船山先生への贈り物があるそうです」  司会のアナウンスとともに、新たに8名の男女が登壇した。松本を含め9人が立ち並び、その中央にいる男性はリボンで括られ桜色の紙で包装が施された小包を、そしてその左隣にいる女性は色とりどりの花束を手に持っている。 「橘君か……相変わらず元気そうだな」  小包を手に持った男性の姿を前に、船山は思わず言葉を漏らした。橘は第7期のゼミ長であり、現在は国会議員として精力的に政務活動を続け、時折テレビで代表質問に立つ姿も報じられている。その一方で毎年開かれる船山ゼミのOB会には欠かさず出席している。 「我々歴代ゼミ長からの感謝の気持ちです。心ばかりの品ですが、お受け取りください」  橘から船山に箱が渡されると、再び割れんばかりの拍手が起こった。 「開けてもいいか?」  船山の問いかけに、壇上にいる9人が揃って頷いた。船山は演台に小包を置いてリボンを解き、そして包装を剥がしていく。中からパッケージのデザインが姿を現した瞬間、船山が思わず大きな笑い声を上げた。船山がその小包を高く掲げると、講堂に詰めかけていた面々は皆笑い声をあげ、手を叩き、しまいには歓声まで湧き起こった。 「まるで新米の炊きごこち キリンのマークのIH炊飯器 つやびかり」  小包の中身は、最新の炊飯器だった。  船山は炊飯器を演台に置くと、再びマイクを手に取った。 「そうだそうだ。ここの9人さ、レポートでおいしいカレーライスのつくりかたを書いたくせに全員ごはん炊き忘れてたんだよ」  船山は満面の笑顔でそう言う。 「はい。もう二度とごはんを炊き忘れてはいけないと思いまして」  そう答える橘の目尻にはうっすらと光るものが溜まっていた。
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