炙り出し作戦

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炙り出し作戦

「でも庭の責任者はギルドでなく叔父だ。私はそう思われるのが嫌なの」とアルダウナ。 「私も同じ事を考えていたわ。ギルドが何もかも被るなら私は従う。但し私が庭の管理を怠れば何が起きるか解らない。私の管理責任はどうなるの?』って。そして私は権限を誰が持つべきか考えていた。私は現場責任者、総監督はギルド。それで良いと思っていたわ。でも…」 「それが、何です?」 「ギルドは許可しないって事よね?」 「はい、それがどうしたんです?」 「もしガルシア家が私の家の管理をするっていうなら、私はガルシア家の管理を取り消して使用人として住みたいの」 「なるほど、そういうことですかガルシアの家令が、それは確かなアリバイありと。それが確証になりますか?」 「さあね、でもガルシア家の人間であることは確実よ」 「疑う者はガルシア家の者に自演する動機が無いのが解らない、そういう事ですか?」 「そう思う人はガルシア様の家の家令か、もしくはガルシア侯爵の一族もしくは自分の家でアリバイが無いことが分かっている相手ね」 これで嵌めようとした人間を炙り出せる。 「そうでしょう。しかしアリバイが無いことを確信している人物がガルシア家の人間だとすると、かなりの人間が疑われているわけですね、もしかしたら家令の方が疑われる」 翌朝ルカは伯爵に権利を返上した。包み隠さず説明していると王太子が斬り込んでた。「大叔父殿、これ以上クラウス公に泥を塗るのは…」 そこにビエナが身を挺した。「いいえ、私が悪いのです!」 咄嗟にルカは紋樹の種をバルコニーに植え急成長させた。闖入者を蔦で絡めとる。まず令嬢が堰を切った。伯爵の顔を立てる為に見合いした事。王家にまだ魔女の血筋を嫌う保守派がいる事。ルカが懲戒解雇されれば破談につながると企んだ事。気の迷いとはいえそれを悩み草に語った自分が愚かだった事を暴露した。王太子は王太子で彼女に佳人以外の魅力を見いだせなかったと白状した。 いつの間にかリサも入室していた。 「妬み草は私が持ち込みました。賢く使えば薬草になります。リーダー格に不安があり…そのぅ…ルカさんの知識を少しばかり拝借しようと…」 「ごめんなさい。私が唆したの。王太子が魔導庭師の技量を会得してくれたら姉さんの悩みや喜びも分かち合えると思ったわ」 ロゼが援護射撃する。アナも便乗した。パーティーでロゼと知り合い、アゼル邸の庭を制御できない悩みを聞かされた、と告白した。 「それで私の所で修行を?」 ルカが問いただすとアナは泣いて謝った。 「いいのよ。貴女は悪くない。優しすぎるだけ」と赦してあげる。 ふたたび王太子が間に入る。「僕だって本当はリサに…」 「黙って!」 ルカが全員を沈めた。そして優しい声で「お入りなさい」と誰かを招いた。 ぱさぱさと羽ばたく黒い影。「クゥ…」と円らな瞳のワイバーンが頭を低くしてルカに寄る。「そう、貴女は責任を感じなくていいの。えっ、処罰?全然よ」そういって雌竜の頭を撫でてやる。 「これはどういうことかね」 戸惑うガルシアにルカは竜語を通訳した。元を正せば失敗談を集めさせたのが失敗のモトだったのだ。彼女は飼い主に流産を重ねた経緯を隠しており、その辛い記憶を任務達成のバネにしていた。主人は失敗続きの庭園が魔女との交易に風評被害を及ぼすと懸念し花好きな雌竜に資料収集を任せていた。その熱心が募って負のオーラをギルド一帯に注いてしまっていた。 「伯爵!」 ルカは強い口調で雌竜の進退を問う。「彼女は死罪もしくは死ぬ覚悟です」 「とんでもない!」とガルシアは大声で否定した。そして捕縛を解くようルカに懇願した。放たれるなり雌竜をぎゅっと抱きしめる。「おお、お前よくやってくれた。これからも私の妻でいてくれ」 その言葉に王太子と令嬢は見つめ合う。 「あの本は書架ごと燃やしてしまいましょう」 ルカは思い切った提案をした。失敗談なんか要らない。ここには雌竜や夫人やロゼたちをはじめ心優しい女性たちがいっぱいいる。その伴侶も恋人も、その子らも親族も、まっすぐな人々が前を見つめれば樹木が天に枝を伸ばすように家系が茂っていくだろう。 その日の午後、王太子の庭で野焼きを兼ねた盛大なバーベキューパーティーが催された。ルカはガルシア家と正規雇用契約を交わし雌竜を駆って広大な荘園を飛び回っている。リサは一気に増えた庭師を監督し、その中に汗を流す王太子の姿があった。ロゼはばっさばっさと枝切りばさみを揮い、アナは有望株のスカウトや営業活動で忙しい。そして王太子夫妻の庭はあでやかさを増していくのだった。
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