春瀬類という人

19/44
4937人が本棚に入れています
本棚に追加
/328ページ
「あのさぁ、いい気になんないでよね」 ボスだと思わしき女性が私の肩をドンッと押す。後ろの人達はそうだそうだと同調するように、みっともなく頷いている。 私が小柄な女性ならばよろけていたかもしれないけれど、自分より15センチくらい小さな女性に突き飛ばされたところでビクともしない。 女性というのは集団で行動した途端、自分は無敵なんだと勘違いして急に強気になるものだ。 男の前では絶対に見せない表情で睨みつけ、いつもは甘ったるい声を何トーンも下げて。 みんな一緒なら何も怖くない。安心で安全だ。そんな変な自信を持ち、大人になってまで集団行動をする心理が私にはよく分からない。 「別に、いい気になんかなってないけど」 冷静に返すと、鏡を見ながら唇に色を施していく。ブラウンがかったローズカラーが、エレガントな雰囲気に仕上げてくれた。 「ただでさえデカくて目障りなのに、イケメンに色目使ってんじゃねーよ」 「デカさであなたに迷惑をかけた覚えはないし、色目も使ってない。そもそもあなた達には関係ないよね?」 こちらが落ち着き払って言えば言うほど、女性達は興奮した様子で更に捲し立ててくる。醜い言葉をつらつらと並べ、私の外見を馬鹿にして。それで一体誰が幸せになるのだろう。何が面白いのだろう。私からしたら、背が高い私よりも無駄口ばかり叩く彼女達の方がよっぽど目障りだ。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!