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「ジンフィズ、俺も好きなんだ」
男性が持ち上げたグラスに入っているのは、私が飲んでいるものと同じジンフィズ。
ジンとレモン、砂糖、炭酸水で作る定番のカクテルはさっぱりとしていて男女問わず人気らしい。
「お姉さん、落ち込んでるの?」
「そんな風に見える?」
「俺にはね」
持っていたグラスを少し上げた彼は、ゆっくりとジンフィズを口に含む。
その仕草はとても品があり、綺麗だ。
「俺は春瀬類。お姉さんの名前は?」
「…大木育子」
自分の名前は嫌い。
私の見た目にピッタリすぎるその名前を口にすると、大体の人は笑いを堪える様な顔をする。だから、いつからか名前を名乗る時は目を伏せるのが癖になっていた。
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