シンデレラノーフィット

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仕事の都合で二週間ほど前に帰国したものの春瀬くんが日本に住んでいたのはほんの数年で、こっちには知り合いも友達もほとんどいないらしい。 外国人がたくさん集まるこのバーの存在をネットで知り、帰国後は毎日ここに通っているのだという話に相槌を打った。 「ここに来たから育子さんに会えた」 「え?」 「会えて良かった」 反応に困る。私の第一印象は良くも悪くも“でかい女”で、会えて良かっただなんて言われたのは初めて。 言葉が出てこないのを誤魔化すように左手の腕時計に目をやれば、時計の針は頂点で交わっている。 「私、そろそろ…」 「待って。ご馳走するからもう一杯だけ」    腕を掴まれ、立ち上がろうとするのを阻止された。強引な男は苦手だ。けれど一点の曇りもない目を向けられると何故か抗うことができなくて渋々座り直した。 「なに飲みたい?」 「…別に、なんでも」 「苦手なお酒は?」 「特にない」 「オッケー」 柔らかく微笑んだ彼はカウンターに立つマークに英語で何かを言っているけれど、同じタイミングでピアノの演奏が終わり、湧き上がる歓声と拍手で聞き取れなかった。 
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