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ーー育子さん…ダメ?
ーー…今夜だけなら…いいよ
あの時、彼の誘いを受け入れたのは何故?
今ならまだ引き返せるのに拒まないのは何故?
修一への当てつけのつもり?
それともムードに流されてる?
…いくら考えても分からない。
自分の行動全てが謎だった。
「余計なことは考えないで」
「…んっ」
耳元に落とされた甘い声に体がピクッと揺れる。こんな状況なのに完全に気を抜いていた。
「もしかして耳弱い?」
「そんなの知らな…」
ふぅ、と確かめるようにゆっくり息を吹きかけられた。それが耳まで届くと恥ずかしいくらいに体が反応してしまう。
信じられない。こんなの初めてだった。
「どうしよう」
「え?」
「優しくできないかも」
頬を撫でられ、唇が触れ合った。
1回目は軽く触れるだけのキス。
2回目は啄むようなキス。
3回、4回、5回…
回を重ねるごとに息つく暇もないほど深くなっていく口づけに頭がクラクラする。
カクテルの甘い匂いと苦い味が欲情を掻き立てるように口の中いっぱいに広がった。
まるで磁石のN極とS極だ。
彼と交わすキスは心地よくて離れてもすぐに引き寄せられてしまう。
「目がトロンとしてる…なんで?」
「…分かんない」
唇が離れている隙に上がった息を整えた。
心臓の音がやけにうるさい。
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