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「いい?ここは日本なの。女性に優しいのは素敵なことだけど人を選びなさい」
「……」
「会社に遊びに来てるような連中は適当に交わしてよし。分かった?」
「……」
口まめなはずの彼が黙り込み、不思議そうな表情をしている。その顔を見て修一から言われた言葉を思い出してしまった。
ーー…おまえのそういうとこ、ほんとやだ。
ああ、なるほど。こういう説教じみたところもオカンみたいだと言われた要因の一つなのかもしれない。
小煩い女が自分の教育係なんてツイてない。
彼の気持ちを代弁したらこんな感じだろう。
「分かったら返事!」
面倒くさい人間だってことは自分が一番よく分かっている。
でもアシスタントをしてもらう以上、惰性で仕事をされては困るからこれでいい。
「……はははっ」
「ん?」
真剣に話をしているというのに、春瀬くんは場違いな笑顔を浮かべている。それも、もう堪えきれないとばかりに。彼が笑うタイミングはいつもおかしいと思う。
「育子先輩っておもしろいですね」
「な、なにがよ」
「日本人はハッキリ意見を言うのが苦手っていうイメージだったけど見事に覆りました」
「ああ、そういうこと」
「それに俺、女性に助けてもらったのも椅子を引いてもらったのも生まれて初めてです。すっごく新鮮」
大人びた彼が顔をくしゃくしゃにして笑う姿はまるで小さな子供のようで、私まで新鮮な気持ちになる。
「育子先輩と一緒に仕事するの、ますます楽しみになっちゃった」
嬉しそうにそんなことを言われると反応に困ってしまい、思わず顔を逸らした。
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