27センチのピンヒール

二人の相性

勤務初日。
早速だけどと前置きをして徹夜で作ったお手製のマニュアルを彼に手渡した私は、時間があるとき目を通しておくようにと伝えた。

仕事内容と一日の流れを簡潔明瞭に…とはいかず、事細かく纏めたそれは30頁を優に超える分厚い手引き。

それほど覚えることがたくさんあるのだから仕方がないけれど、こんなものを学校や会社で配られたら間違いなく溜息が出てしまうだろう。

だけど彼はそんな雰囲気を微塵も感じさせず、仕事の合間に隅から隅まで熱心に熟読していた。

面倒くさがるどころか一枚一枚全て手書きのマニュアルに感動し、似顔絵つきで書いた仕事関係の人の名前や性格を楽しそうに暗記して。

私は人から褒められて喜ぶような人間ではないけれど、「字が綺麗で分かりやすい」だとか「絵が可愛いから見てて楽しい」とか笑顔で言われると悪い気はしなかった。