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「育子先輩…」
「な、に…」
突然、真横からスッと伸びてきた手が私の頬に触れる。
その双眼は私を捉えて離さないけれど、狼狽えることはしない。
「お米、ほっぺについてました」
「そう。ありがとう」
だって彼はスキンシップの天才だもの。
人間なにかを食べてりゃ何処かにつくことだってあるし、このくらいでいちいち動揺したりしない。
「食べてもいいですか?」
「は?」
私の頬を拭った親指の先には五穀米が一粒。
トンチンカンな問いのあと、彼は自分の指先をカリッと噛んだ。
「美味し…」
「なっ…何してんのっ!?」
「俺も五穀米と迷って玄米にしたんで食べてみたくて。ちょうどよかった」
「だったらおかわりせい!」
「うーむ、春瀬…キミは天性のエロさを持ってると見た」
「なんで美紅は口元にお米つけてんの!?」
「うふ。春瀬に取ってもらおうかなーって」
「あのねぇ…」
「んー…麦ご飯の気分じゃないんで美紅さんのはいらないです」
「ねぇ、そういう問題?」
オアシスのはずの昼休みはドタバタギャーギャーしている内に終わってしまった。
会社に戻ったらジョージさん…もとい、部長に抗議しよう。
頼むから仕事以外はこの男を私から離してください。私にはとても手に負えませんよ、部長…。
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