第六章 想いは絶え間なく、切ない。

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鷺宮さんは「傘は貰って下さい、じゃ、また」と言ってエントランスのロータリーの方へと移動していた車に戻って行く。 そこには車のトランクからキャリーケースを出している品の良い佇まいの男女が見えた。鷺宮さんが戻ると彼等は私達の方を向いて深々と頭を下げた。ご両親なのだろう。私達も頭を下げた。三人はベルボーイに案内されながら、ホテルの中へ入って行った。 鷺宮さんに対して申し訳ないことをしてしまったと暗い顔をしている私に課長はどうした?とまた心配そうに聞いてくる。 「いえ、何でもありません。…せっかくお借りしたので、行きましょうか」 「気分が悪いならタクシーを呼ぼうか?」 「もう大丈夫です。さっきはすみませんでした」 「いや…」 「……」 見つめられて顔が火照る。さっき感じた温もりが蘇ってきたからだ。行こうか、と促されて傘を開いて、二人で雨の中へと歩き出した。最寄りの駅まではそう遠くなくて良かったと思えた。
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