第六章 想いは絶え間なく、切ない。

30/34
661人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
「通りかかったらお二人が見えて。良かったらこの傘使って下さい」 鷺宮さんは何も見ていなかったかのように私達の前に来ると簡易なビニール傘を二本、差し出した。 「でも、これ…」 「車に置いている予備のだから使って。私、今日、ここに宿泊するの。母の誕生日のお祝いに家族で」 「そうなんだね。お母様、おめでとう」 「ありがとうございます、課長」 お祝いを述べた課長の方を見て、にっこりと微笑む鷺宮さん。 「おめでとうございます」 「ありがとう、瀬早さん」 「でも、お二人はどうしてここに…?」 「打ち上げをしていたんだ。プレゼンの。営業二課の日向君も一緒に」 「ああ、なるほど。黒須課長、今度部長に昇進されるんですよね。おめでとうございます」 「まだ先だけれどね、ありがとう」 鷺宮さんは笑みを絶やさぬままに課長と私、それぞれに傘を握らせた。 「私てっきり二人で食事していたのかと勘違いしちゃいました。そんな訳ないですよね、課長に限って」 鷺宮さんはちらっと課長を見てそう言うと、課長は返答に困ったように彼女を見た。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!