第一章 新しい上司

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第一章 新しい上司

新しい勤務先である黒須トレーディングは貿易業を営んでいる。 輸出入で取り扱う品目は多岐にわたり、国内外の雑貨や本、CD、文具からタオルなどの日用品、下着、ルームウェアなど良質なものを受発注し、出荷している。 私の業務は国内の顧客の注文を受け海外の仕入先へと発注、航空便や船便などの手段を使い、納品するまでの一連の業務を行う輸入事務の仕事だと面接の際に簡単に説明されていた。 発注に関しては海外とのやり取りなのでメールや書類は基本的に英語が多く、英語によるコミュニケーションも求められることがあると知り、得意な語学力を少しでも生かして働きたかった私には合っていると思えたので転職先に選んだ。 前職は翻訳会社だった。主に医学や化学等、学術分野の論文の翻訳をしていた。英語は昔から得意で大学では夏休みを利用して米国の語学学校に短期留学していたこともある。 エレベーターで三階に上がり、第一・第二営業部と扉に書かれた自動ドアを踏む。 正直新卒ではないけれど、緊張で落ち着かない気分だ。新しくおろしたパンプスは踵があたって少し痛い。けれど今は我慢。慣れればきっと緊張も靴擦れも日が経つにつれて収まるだろう。 広いオフィス内に自席を探して歩く。配属先は第一営業部門だ。どこだろうかと歩いていたら唐突に名前を呼ばれた。 「美崎(みさき)!」 声の方を見ると、よく見知った背の高い男が席を立ってこっちに来る。
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