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扉が開くと同時に降りたら、瞠のスマホが震えたらしく、瞠は「上司に呼び出された、すまん、また後でな」と降りたばかりのエレベーターに乗ってしまう。
「黒須課長の執務室は営業フロア横切って一番奥な」
スマホを耳に当てた瞠が眉根を下げて申し訳なさそうに私を見て、すぐに扉が閉まった。
第二も忙しそうな部署なんだなぁ。
長い廊下はしんとしている。
歩くごとに一人取り残された心細さが足元から這い上がる。
ガラス張りのオフィスが両脇に見えてきた。左右どちらも同じくらい忙しそうにきりりと立ち働く男女が見えた。皆、美男美女ばかりの気がするのは、気のせいかな。
あの中で物怖じせずに働くんだ。
せっかく環境を変え、心機一転して働くんだ。
見た目だけでも堂々と見えるようにしなきゃ。
心細さを胸底にぐいぐいっと押し込め、一番奥の突き当りにある扉の前に立つ。
ドアノブを開ける前に姿勢を正してーーー
左手に《黒須黒須黒須》と三回書いて飲んでみた。ちょっと気持ちが落ち着いて、覚悟を決めてノックをすると、どうぞ、と穏やかな声が聞こえた。
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