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失礼します…と扉を開けた私の目に信じられない光景が飛び込んできた。スーツ姿の女性に後ろからハグされた一人の男性、女性はにこやかな表情で彼の頬に触れている。いわゆるそれはキスであって。デスクの上には湯気の立つ珈琲が置かれていた。
この部屋が黒須課長の執務室だと教えられたということは、このいちゃついてる人が私の新しい上司…?!
まずい…と慌てて扉を閉めようとした私に、切れ長の目がこちらを見て心臓が飛び跳ねた。
さらさらな黒髪、凛々しく伸びた眉、聡明そうな黒の瞳が私を困ったように見つめている。縋るような表情を浮かべた顔立ちは一度見たら逸らせないくらいに見目麗しい。
「しっ、失礼いたしましたっ」
いったん開いた扉を慌てて閉めようとした私にその人は言った。
「気にするな。いきなり失礼なことをしてきたのは彼女の方だから」
そう言いつつ女性を睨んだ彼は彼女の手首をゆっくりと振り払うと、深々とため息を吐いた。
「ランチの先約は私だからね?」
「鷺宮さん…それは断ると言ってる。
私は今日…ああ、そう、
彼女と会食に行かねばならない」
と、その人は視線を私に向けると、不自然な笑顔で微笑んだ。
えっと…彼女ってわたしのこと?
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