第一章 新しい上司

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* 「一生のお願い。ね、今度一杯奢るからっ!」 昼休みが来た私は、一通りの業務内容を把握し終え、隣の席の指導役の先輩女性社員、豊島さんに教えられた通りに海外の取引先に次々と発注メールを出していたが、昼休憩のチャイムと同時に席を立った。 急いで三階の第二営業部に行き、同僚とランチに向かおうとしていた瞠を呼び止め、今、手を合わせている訳である。 「会食?別にいいけど…何で俺?」 「ランチに誘えるような知り合い、まだ瞠しかいなくて…」 また今度なー、と同僚の方達が去ってゆき、私は申し訳ない気持ちでその背中にすみませんっと言いつつお辞儀をすると、再び瞠に向き直り片目を瞑って、ね、お願い!と今度は可愛くお願いしてみた。瞠はちょっとびっくりしているけれど、今は切羽詰まっているのでいつもとキャラ違いなのは見逃して欲しいところです、はい。 「ね、お願い!これには深ーい事情がありまして…」 「どんな事情だよ」 はっ!しまった…。 必死過ぎて余計な事を言ってしまった。 青ざめた私に聞いてやる、と身長の小さい私に屈むと耳を差し出してくる瞠。観念してその耳を掴んで指で丸めて、外に絶対漏れぬよう、そっと耳打ちをした。 「黒須課長とふたりきりで食べたくない?は?」 「ほら、き、緊張するし、何話してよいかわからないし…」 新しく新天地でやり直す初日に課長付きの臨時秘書であるらしい鷺宮さんのお気に入りの黒須課長と噂にでもなったら…想像しただけで目眩がしてくる。 「お前、変わってんな。あの超絶イケメン課長に誘われるなんて垂涎案件じゃん」  「垂涎案件?」 「嬉しくてよだれ出るくらいラッキーってこと。  課長、社内一モテるから」 「…あまり煽らないでくれないか、君」 「く、黒須課長!」 いきなり後ろから口を挟んで来たのが黒須課長本人だったから仰け反った。 「君を誘いに来た」 困ったように髪を掻き上げながら縋るように見つめられて、本人は意識してないみたいだけれど大人の色気ダダ漏れな瞳にドキッとしてしまう。初めて会ってから何度か見ているけど、この視線はなんだか落ち着かない気持ちになるから苦手だよ…。
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