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その聖那が、最近特に機嫌が悪い。
ここのところ、珍しく熱心に口説いていた新人の男性モデル、一ノ瀬葵が恋人と同棲を始めた。
その相手が、どう見ても自分より劣ること、そして、あと少しで口説き落とせるところまで来ていたのに、急展開での同棲開始が彼の不機嫌の原因らしかった。
二人で映画を撮っているときに、聖那は、毎日のように葵を食事に誘っていた。
けれど、葵はいつも「大宮さんも一緒に」と真を連れていった。
真は今年28で、聖那より三歳年上、葵よりは、7歳程上になる。
それもあって、葵は、こんな頼りない真のことも頼って甘えてくれる。
「あんまり聖那と二人きりになりたくないんだ」と綺麗な瞳で懇願されて、真は「わかりました!」と緊張気味に返事をした。
聖那はいつも「なんで真も付いてくんだよ!」と怒っていたが、結局は真の分もご馳走してくれる太っ腹なところもあった。
────
「真、明日のmen's space 撮影何時?」
雑誌の撮影時間を聞かれて、真は慌てて確認する。
「えっと、渋谷のスタジオに10時です」
「わかった。じゃあ俺帰るから」
「あ、送ります!」
真は、車の鍵を取り、聖那を追いかける。
聖那は、脚が長いので普通に歩いていても真は、小走りになる。
「まじ、使えねー、早く来いよ」
聖那は、今日もかなりイラついていた。
「はい!すいません」
真は走って、聖那に追いつき、その場で躓いて転びかけた。
「う、わ!」
聖那の長い腕が伸びてきて、真は救われる。
「何やってんだよ!あぶねーだろ!!」
聖那は、真を抱きしめたまま怒鳴りつけた。
「ごごごごめんなさいぃ!」
抱きすくめられて、聖那のいい匂いに真は一瞬うっとりしてしまった。
「お前さ」
聖那は、真の顔をじっと見ている。
「は、はい」
「うっとりしてんじゃねぇよ」
そう言って、手を離した。
「すいません…」
真は、消え入りそうな声で言い、とぼとぼと聖那の後をついて行った。
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