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秋真視点
秋真と夏奈は中学生、そして高校生へと順調に進学した。 中学の時は互いに部活に入り、朝練があったり夜遅くまで部活があったりと、時間の合わない生活を送っていた。
夕食の時間も違い家で会うとしても廊下くらい。 部活に疲れ早く寝てしまうし、仲のよかった兄妹の姿は見る影もなく、ほとんど口すら利かない生活を送っていた。
もっともそれはお互いにいがみ合っているというわけではなく、どちらかと言えば時間的な問題が大きかったのだが。 そして秋真が高校生になり夏奈が受験生になった時のことだった。
「お兄ちゃん! ねぇ、お兄ちゃん聞いてよ!」
久しぶりにまともに話しかけてきたと思ったら、とんでもないことを言い出したのだ。
「私ね、お兄ちゃんと同じ高校へ行く!」
「ッ、はぁ!? 俺の真似をするんじゃなくて、自分の行きたい高校へ行けよ」
「だって行きたい高校がないんだもん!」
てっきりもう自分に付いてくるのは止めたと思っていた。 どうやらそのようなことは全然なかったようだ。
「本気で受ける気?」
「もちろんッ! 私、勉強頑張るからね!」
そういうことで本当に夏奈は秋真と同じ高校を受験し合格してしまうのだ。 結局、幼稚園から高校まで全て同じになってしまった。 内心少し複雑だった。
「お兄ちゃん! 一緒に学校へ行こう!」
高校に入ると夏奈は昔と全く同じように接してくるようになった。 高校は互いに部活に入っておらず上手く断る理由が思いつかない。
高校生になった夏奈は可愛らしく成長し、兄としても少し自慢できるような少女となった。 だがそれも何となく複雑な心境なのだ。
―――・・・小学生の頃、友達に言われた言葉。
『お前と妹、仲が良過ぎないか? 仲がいいのはいいことだけど、普通はそこまでべったりとくっつかないぞ』
―――そう言われてから、夏奈を突き放すようになった。
―――夏奈と遊びたい気持ちはもちろんある。
―――だけどあの時の俺は、周りから浮くのが嫌で恥ずかしい思いをするのも嫌で、自分を守るために夏奈を突き放したんだ。
―――・・・今思えばあの時の俺は最悪だよな。
―――理由も何も言わずに身勝手に突き放したんだから。
だから秋真自身悪いと思っていた。 だが悪いと思ったことを素直に謝るのも難しい。
―――・・・ただの思春期だったとか、そういう言い訳はできなくて。
―――逆に今なら、夏奈のことを受け入れられるのかな。
秋真にとって夏奈はたった一人の大切な妹であることは間違いない。 ただこう年を取って一緒にいるとカップルのように思われるのではないかという不安もあった。
「秋真ー。 ちょっとお使いを頼まれてくれない?」
ある時母からお使いを頼まれた。 夕食のしらたきが足らないとかそんな些細なことだったと思う。
「あぁ、分かった。 行ってくる」
そう言って立ち上がった時だった。
「私も行く!」
リビングで雑誌を読んでいた夏奈がそう言って立ち上がった。
「はぁ? 暗いから止めておけって。 俺一人でいい」
「だからこそだよ! お兄ちゃん一人じゃ心配だしー」
「はぁ!? 暗いところ怖いって言って震えていたのは夏奈の方だろ!」
「成長していないねー! そんな昔の私は既にもうおりませんッ! というか、読んでいた雑誌暇だから飽きちゃったんだよ。 しらたきを買うって、ひまわりスーパーでしょ?
隣に本屋が隣接しているからそこへ行きたいの。 ということで、二人で行ってきます!」
「ったく・・・。 結局自分が行きたいだけじゃないかよ」
文句を言いつつも無理に一人で行く理由も見つからず、二人は揃って家を出た。 隣に並ぶ夏奈は学校の出来事など他愛のない話をしている。
―――今はもう隣に並ばれても嫌とは思わなくなった。
―――小学生の頃はともかく、中学生になってから夏奈の大切さに気付いたんだ。
―――小学生の頃は時間に余裕があったからか、いつも夏奈から積極的に話しかけてくれていた。
―――だけど中学になって忙しくなると、それがなくなった。
それは素直に寂しかった。 この気持ちは自分の心だけにしまっておくことに決めている。
―――・・・一度意地を張ってしまえば、もう直しにくい。
―――今は突き放すとまではいかないけど、素直になるのがどうしても気恥ずかしくて素っ気ない態度を取ってしまう。
「それでさぁ! 数学がピンチなの! お兄ちゃん、教えてくれない?」
「そのくらい自分でやったら?」
「自分でやってもできないから頼んでいるんだよぉ! お兄ちゃん、お願いッ!」
縋るようにして秋真の腕を掴んできた。 昔のような言動に戸惑ってしまう。
―――・・・最近の俺、昔よりかはマシだけど少し冷たいのかなって思っていた。
―――だけど夏奈は気にしていない様子だな。
そのためしばらくはこのままでいることにした。
―――・・・夏奈は、小さい頃から変わらなさ過ぎるんだよ。
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