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夏奈視点
「よし!」
夏奈は鏡の前で全身を確認し、くるりと回転してみた後意気込んだ。
―――今日はいつもと違う月曜日。
―――頑張っていこう!
いつもより少しばかり化粧に力を入れているのには理由がある。 スクールバッグを取りいつものように秋真に声をかけた。
「お兄ちゃん! 一緒に学校へ行こう!」
高校生になってから一緒に登校してくれるようになった。 何も返事をしないが隣に並んでも文句は言わなかった。
―――粘ってよかった。
―――お兄ちゃんとまた一緒に通えることができて嬉しい。
歩いていると秋真がチラリとこちらを見る。
「・・・何か、いつもと違わないか?」
「ッ・・・」
その言葉にドキリとしてしまった。
―――・・・お兄ちゃん、こういう時だけズルいよ。
―――でも気付いてくれて嬉しい。
「少しだけ気合を入れておめかししてみたの! どうかな?」
「・・・別にいいんじゃね」
「やった!」
「・・・今日、何かあんの?」
「うーん、お兄ちゃんでも流石に秘密ッ!」
一緒に仲よく登校しながら夏奈はスマートフォンを手に取った。
「・・・歩きスマホは止めろよ。 危ないぞ」
「でもお兄ちゃんが守ってくれるんでしょ?」
「そういう人任せはよせ」
「信頼できるから任せられるんだよ。 ねぇ、今スマホで何をしているのか知りたくない?」
調子に乗って尋ねると、逆に夏奈が焦る羽目になる。
「好きな人との連絡?」
「ッ・・・」
言い当てられてしまった。 確かに夏奈のスマートフォンには、意中の相手を宛先にしたメッセージアプリが起動している。
「よ、よく分かったね! 流石お兄ちゃんッ!」
「・・・」
「あ、そう言えば今日の放課後は一緒に帰れないや。 お兄ちゃん、先に帰ってていいよ」
そう言うと秋真は気まずそうに顔をそらした。 そのまま兄とは昇降口で別れた。 今日の放課後は好きな人に告白をする日。 今日は苦手なメイクも頑張ってした。
何となく昨晩は綺麗に身体を洗ってみた。 これで変な匂いはしないはずだと思ったが、学校では緊張から何故か汗が出る。 そのようなこともあり一日中授業が全く頭に入ってこなかった。
そして、放課後になり呼び出した彼は屋上へと来てくれた。
「ずっと好きでした! 付き合ってください!」
想いを告げ頭を下げる。 来てくれたからには脈がある。 そんな風に浮かれていた自分が馬鹿だった。
「・・・ごめん。 俺にはずっと好きな人がいるんだ」
そう言って彼はそれ以上何も言わずに屋上を去っていった。 正直上手くいかなかったことよりも、きちんと来てくれて断ってくれたという誠実さに好感を持った。
自分が好きになった人に間違いはなかったと思うことができた。 だからこそ、帰り道は涙が溢れてしまう。
―――あーあ、振られちゃったよ。
―――今お兄ちゃんが隣にいなくてよかった。
―――こんな酷い顔、絶対に見せられない。
何とかして玄関前までに涙を止め家に入る。
「ただいまー・・・」
声が小さくなってしまうのは仕方のないことだろう。 そのまま逃げるように中へ入ろうとすると、丁度二階へ上がろうとした秋真と鉢合わせしてしまった。
「・・・おかえり」
「あ、あぁ、うん! ただいま! いやー、夏の夜はやっぱり涼しいねー」
「・・・何かあったのか?」
「え? どうして?」
「・・・だって目が」
「別に何もないよ? さーて、帰るのも遅くなっちゃったし、さっさと課題を済ませよー」
無理に笑顔を作って先に二階へと上がる。
―――・・・やっぱりお兄ちゃんは大切な人だから、心配をかけたくないんだよ。
―――お兄ちゃんお願い、どうか気付かないで。
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