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秋真視点
―――・・・本当、昔から夏奈は作り笑顔が下手だよな。
夕食の時間になり家族で食卓を囲む。 いつもは完食当たり前な夏奈があまり食べずに席を立った。
「夏奈? もういいの?」
「うん。 最近ダイエットをしようと思っててさー」
「十分痩せているのに?」
「着痩せするタイプなんですぅー!」
夏奈は食器を片付け自分の部屋へと戻っていく。 そんな後ろ姿に静かに視線を向けていた。
―――・・・あんなに小さかったのに、いつの間にか異性に恋をしていてさ。
―――可愛くなろうと努力するし、知らない間に夏奈は随分と成長していた。
―――・・・だけど変わらないこともあるんだよ。
秋真は夕食を終えると二階へ上がり夏奈の部屋をノックした。
「はい?」
「ちょっと出てこい」
「えー。 どうして?」
「いいから」
夏奈がドアを開けるとすぐに彼女の手を取った。 多少強引過ぎる気もするが、今はそれでいいのだと秋真は思う。
「え、ちょっと!? お兄ちゃん!?」
「来い」
一階へ行きリビングへ少し顔を出す。
「夏奈と一緒にコンビニへ行ってくる」
家を出るもコンビニとは違う方向を目指して歩く。 当然夏奈もそれを悟った。
「お兄ちゃん? コンビニはこっちじゃないよ?」
「行き先変更だ。 少し登るぞ」
「登る?」
近所の公園の脇道を進むと山に繋がっていて小さい頃はよく登って遊んでいた。 久しぶりの道は昔と同じところも変わったところもたくさんある。 それが何となく今の夏奈と重なった。
山を登り辿り着いた場所では満天の星空が綺麗な夜景が広がる。 その光景に夏奈は釘付けになっていた。
「わぁー! 凄く綺麗! 思えば、来たのは子供の頃だけだから夜に来たことがなかったなぁ。 わざわざこの景色を見せるために私を連れてきてくれたの?」
「・・・」
何も答えないと自然と夏奈も口を閉ざす。 しばらく互いに口を閉ざしたまま夜景を眺めていた。
「・・・いつから気付いていたの?」
「・・・夏奈が帰宅した時から」
「頑張って笑顔を作っていたのに?」
「お前の作り笑顔は世界一下手なんだよ」
その言葉に夏奈は笑った。
「それは絶対にない。 これでも私、周りから言われるんだよ? 『いつも笑っているから悩んでいることに気が付かなかった』って。
・・・だからきっと、作り笑顔に気付くのはお兄ちゃんだけなんだね」
そして夏奈は間を空けて言った。
「ねぇ、お兄ちゃん。 憶えてる? 小さい頃お兄ちゃんは『夏奈のことはいつも一番近くで見ているから何でも分かるよ』って、言ってくれたよね」
その言葉に小さく頷いた。
「当たり前だろ。 夏奈と距離ができた小学生の時以降もずっと、お前から目を離すことはなかった」
「え、本当に?」
「・・・夏奈はたった一人の大切な俺の妹なんだから」
「ッ・・・」
こんなに素直に自分の気持ちを夏奈に向かって言えたのは幼稚園依頼だった。 それを聞いた夏奈は昔のように抱き着いてくるのだ。
「やっぱりお兄ちゃん大好きッ!」
-END-
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