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恋する日々は眩しくて。それには名前がなくて。ただ夢から目が覚めると、彼女が淹れた珈琲の薫りと幸せな気持ちで胸が満たされていた。
彼女の兄でもある幼馴染みが、タイの女性に入れ込んで音信不通になっていたのは残念だったけれど、気心が知れていた頃のように二人であちこちへ遊びに行った。
馴れ合いに名前が欲しくて、池袋のサンシャイン60展望台で告白をした。「私も告白しようと思ってた」という彼女の言葉に、「えーじゃあ今の無し。もう告られるまでしない」と返して笑い合った。
すぐに返事が来ないだの、既読スルーだの、喧嘩の愚痴を言う友人達を尻目に、俺たちは携帯電話に振り回されぬよう互いが互いの生活を尊重しあった。会えない時間も気持ちを大切にして時を重ねた。
不思議なもので、恋人ができた途端に女性から声をかけられる事が多くなった。男としての余裕が安心感を与え、魅力を生むのだと専門誌に載っていた。
初めての状況に、自分が押しに弱い事を自覚した。絶好のチャンスは最悪のタイミングでやってくるとはこの事なのか。
関係が近すぎる女友達が増えるほどに彼女との会話は減っていたかもしれない。心変わりなんてしていなかった。ただ、女友達と遊ぶのと彼女と会うのとでは、やはり新しい事の方が楽しいと思えてしまっていた。
「私のこと好き?」「もちろん好きだよ」そんな悪戯な会話が「私のこと愛してる?」「当たり前だろー」と確認作業に変わったのはいつからだろう。
一度、同棲しようと言った事があった。彼女は「同棲したら結婚できなくなる」と言って、実家からたまに泊まりに来ていた。その結婚は俺との事なのか、なんて気になる事もないくらい俺は軽い気持ちで言葉を口にしてしまっていたんだ。
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