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 初めての彼女だった。初めての女性だった。当然別れが来るんだろうと思っていた。心の何処かで『最後の女性として出会いたかった』と思っていた。それでも彼女との日常は変化も刺激もなくなってゆくばかりだった。  いつの事だったろう。せっかく二人一緒に居られる休みだったのに、俺はソファーに座り映画を観ていた。彼女は何も言わずにキッチンカウンターで本を読んでいた。時折、同じタイミングで笑った。振り向くと君が本から目を上げこちらを見ていた。目が合うと軽く肩を竦めて視線を本に戻した。同じ部屋で互いが好きな事をして、特に言葉を交わすこともなく流れる時間。独りよがりだったかもしれないが、そっと寄り添う心の距離を感じた。  エンドロールに背伸びをすると本を閉じる音が聞こえた。「コーヒー淹れるけど飲む?」と言う声に、体を仰け反らせるように後ろを向いて「うん飲む」 と答えた。  ふたりソファーに並んでのコーヒーブレイク。隣から微かにミルク多めの甘い香りがしてくる。ふと幸せだなと感じた。いつもと変わり映えしないひと時なのにと不思議に思った。  カップに揺れる琥珀色を見つめながら、その感覚の原因に思いを巡らせていた。  コーヒーが美味しかったから? 映画が面白かったから? 家でのんびり過ごせているから? 甘い匂いがしてきたから? いつも香る甘い匂いをたどると、いつもの横顔がそこにあった。どんな時でも居てくれたんだ。触れる肩の温もりにまで慣れてしまっていたんだと心が揺れた。  思い過ごしだったのかもしれない。けれど肩先から伝わる愛情に、愛しさと一緒に込み上げる涙をこぼさぬよう。俺は上を向いて唾を飲み込んで「結婚しないか」と言ったんだ。
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