無窮

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「いいですかみなさん、漢字はひとつひとつ意味があって構成されていますよ。今日は青から始めますよ」  廊下に脚立を立てて欄間から覗いています。家内は黒板に漢字を書き始めました。辞書も見ずに、それも方眼紙のマスに書き入れるように縦横乱れなく書いていきます。 「凄いですね」  警備員が驚いている。いくら国語の教師と言えあそこまで出来るものだろうか、私は恐くなりました。家内に何かが乗り移っているとしか考えられませんでした。 「誰だ」  家内が手を止めてこっちを見ました。私達は頭を下げました。 「みんな、誰かが授業の邪魔をしている。廊下にいる」  するとどうでしょう、全ての椅子が後ろに下がりました。 「何ですかあれは?」  私達は脚立を担いで廊下を走り逃げました。 「左です、管理室」  曲がる時に後ろを振り返ると家内がこっちを睨んでいました。私達は管理室に飛び込みました。警備員が施錠すると複数のドアを叩く音がします。一人や二人ではありません。 「何ですかこれは?」 「分かりません」  五分ほどノックの嵐が続き次第に数が減り最後にコンと打音がして終わりました。 「音が消えました」  警備員は解錠しゆっくりとドアを開けました。私も出て逃げた廊下を戻ると少年が一人立っていました。
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