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「君は何年生だ?何時だと思っているんだ、忘れ物なら明日にしなさい。こっちに来てクラスと名前を記入しなさい」
着古した学生服の坊主頭は裸足でした。
「たまにこういう子がいるんですよ、ほとんど忘れ物が多い、携帯をね、授業中は使用禁止ですから体操着の袋かなんかに入れてそのまま帰宅してしまうんですよ」
少年は言われた通り記入しました。
「2年8組?君おかしなこと書くと親に電話するよ、8組なんてない、君はどこの誰だ?」
少年は警備員の言葉に不思議そうな顔をしています。
「お前は誰だ?お前も誰だ?お前だよお前こそ誰だ?お前はどこの誰なんだ?お前のその口が悪いのか?」
少年は警備員の唇を抓りました。
「何をするんだ警備員さんに、その手を離しなさい」
警備員が少年の手を解こうとしても離しません。親指と人差し指が上唇を貫通して口の中で爪が合わさっています。警備員が痛みを堪えて机にある鋏を振り上げました。
「その指を離さないと刺すぞ」
警備員はもごもごとした発音で脅しましたが少年は一向に離しません。
「お前は誰だ?ちょきちょきちょっきんちょっきんな♪」
笑いながら節をつけて言いました。警備員は鋏を少年の頭に突き刺しました。
「痛いよ痛いよ」と言いながら教室に走り逃げました。もうじき夜明けです。これは夢ではないかと首を振りましたが、目の前で唇をハンカチで抑える警備員を見ると恐怖の現実だと身体が震えました。恐る恐る家内がいる教室に行きました。ゆっくりとドアを開けると家内が倒れていました。
「どうした、大丈夫か?」
「あなた、私どうしたの?疲れた、眠りたい」
家内を負んぶしました。さっき少年の頭に差した鋏が黒板の前に落ちていました。黒板には家内が消した漢字の消し跡と中央に赤い斑点が付いていました。
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