西の者

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西の者

このとき遥香は夢を見ていた。 夢の中で遥香は1人で草原を歩いていた。 しかも夜で、空は真っ暗だ。でも星は見えない。唯一オリオン座だけが空に鎮座していた。 オリオン座を見上げながら、夜の草原を歩く。オリオン座に見られているような感覚になってくる。 違うな。きっと私はオリオン座に導かれている。このまま歩こう。オリオン座がどこかに連れて行ってくれる。 オリオンはこの日も左手に赤い星「ベテルギウス」を携え、右足には青い星「リゲル」を身につけていた。そして腰の位置にベルトのように三点の星を装着して勇ましい姿で遥香を見下ろしていた。 もちろん、オリオン座は遥香を導く。 遥香の目の前には大きな石の塊が姿を現した。 古墳だ…直感で分かる。学校でも習ったし、写真で見たことある。けど実際に見る古墳は、闇に眠る怪物のように感じられる。しんと静まり返った草原の中で、怪物の息づかいが聞こえてきそうだった。 遥香はそのまま古墳に近づき、中に入れる穴を見つけた。怪物の中に足を踏み入れた。 身をかがめないと通れない通路を進むと、大きな岩に囲まれた空洞に出る。それはただの穴ではない。誰かのための部屋だった。 岩に囲まれているだけなのに、人の気配がした。きっとそれは人でもない何がなのだろう。 遥香はだんたん怖くなる。早くここから抜け出したい、家に帰りたい、そう思った。けど足がすくんで動かない。だから遥香は両手を合わせて祈った。私を家に帰らせてと、何かに向かって祈った。 すると、どこからか緑の光が差し込む。薄暗い岩の部屋が緑色に照らされる。そして岩に埋め込まれた小さな石たちが緑色に輝き始める。 無数の緑の光が飛び始めた。 その中の一つの光が遥香に向かって来る。遥香はそれを身体の真正面で受け入れる。 そして誰かが遥香の耳元で囁く。 「これであなたは西の者になった」 その瞬間、遥香の夢は終わる。
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