愚者の門番、賢者の聖杯

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憐みか、嘲笑か。 それがどちらにせよ、俺を小馬鹿にしたような含みを持つ言葉を投げかける王をクロイが慌ててたしなめる。 「王よ……、客人です」 「ふむ、そうであろう。だが、俺は正直者でな。正直に……感想を述べたのみである。そこの男。顔を俺に見せる事を許してやろう、面ツラを見せろ」 やれやれ、と思ったがここで面倒事を起こしても得になることはなし。俺は割り切って顔を上げた。 そうすると、俺にも王の顔が良く見える。 正直な言葉を俺に投げかけた男は、見ればみるほど、傲岸不遜というか……人の話を聞くタイプの人間ではないと表情、態度で示していた。整った顔に、皮肉屋の笑顔が張り付いている。 その男と顔はよく似てはいるものの、素直そうで好感のもてる顔をした王の子供らしき少年が俺を見て驚いたようにぽかんと口を開けてから王に喋りかける。 「お父様。彼はクロイ達と皮膚が違います。まるで僕達のような……」 「馬鹿な事を。いいか、我々の肌とあいつの汚らしい色と混同するな。ああいった類の肌は西の少数民族が身につけている。我々の肌はもっとすべらかで優雅な色だぞ、ロル」 「そうなのですね、ごめんなさいお父様」 「いいのさ、そらもういいだろう?これから私はこの客人と話をせねばならんから、どこかで遊んできなさい」 「はいお父様」 そう言ってロルと呼ばれた少年は王の首に腕を回して、ささやかな口づけを頬にしたかと思うとしなやかな動きで王の膝から飛び降りると俺に手を振ってから部屋の外に出て行った。王は我が子を視線で追いながら、可愛いだろう、と初対面の俺に同意を求めた。はい、と俺が答えると王は玉座に深く沈み込み、椅子の肘掛に肘をつき、頬杖をしながら俺に問うた。 「で、お前は神の僕しもべか」 「いや……そうではないんですがね」 「それではなんだ」 「あたしにもよく解らないんですが……つまり、こういうことです。あたしはしがない男でね。ここじゃない世界で、つまらなく生きていた。そうしたら突然大きな門が現れまして、ね。その中に入ると神、のようなものだっていう男に門番になれって言われまして。だから、あたしも良く解らない事ばかりで」 「なぜ、門番に選ばれたのだ」 「ははは」 「……なぜ笑う」 「それが、傑作な話でしてね」 俺は突然、たまらなく煙草が吸いたくなった。 煙草を吸っても? なんて野暮な事を聞くつもりはなかった。
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