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吸ってはいけないと言われたらやめるか?いいや。俺は吸いたくてたまらないんだ。
やめろ、と言われたらやめればいい。俺はゆっくりと胸ポケットから煙草のケースを取り出して、慣れた手つきで煙草を一本つまんで口に含む。それから隣で俺がしようと思った事に勘付いたクロイが俺の名前を呼んだがやめる気はさらさらなかった。
安いライターで煙草に火をつけて、深く、深く息を吸う。
肺にたまる白い煙が俺の気分を浮遊させる。
「……笑うしかない話なんですよ、旦那。なぜ、門番に選ばれたか?それはね、あたしが愚者だからですって」
「愚者?」
「ええ、そうらしいですよ」
そう言って頷くと、途端に王は破顔して、それから大いに笑った。嫌味な笑顔で。
「ははは、気に入った。お前は、面白いな。名前をなんという」
「へえ、工藤です」
「クドウか。クドウ、俺はジモンだ」
「ジモン、と呼んだら不敬にあたりますかね」
「そうだ。だが、お前は気に入った。ジモン様と呼ぶことを許そうではないか」
そう言いながらジモンは玉座から立ち上がり、俺の元へと降りてきた。不思議そうな目で俺が吸っている煙草から出る煙を見つめた。
「これはなんだ」
そう問うジモンにクロイが慌てて立ち上がり、胸に手を当てながら答えた。
「恐れながら、王よ。客人は病を患っているそうです。ですから、あれは薬だそうで」
「なるほど。病人か。道理で痩せこけている。……まさか、うつりはしまい?」
「うつりませんよ、ちっとも」
俺はへら、と笑いながら胸ポケットから携帯灰皿を取り出して、吸いかけの煙草の灰を落とす。そうすると、いきなりジモンが俺の顎に手をかけて、クイ、と俺の顔を上向かせた。
そうするとジモンの男らしい顔が良く見えた。
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