愚者の門番、賢者の聖杯

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「たすけて、たすけてくれ、クドウ」 「おい、よせ、くるな」 「頼む、クドウ、俺は、俺は……」 俺に手を伸ばし、助けを求めるジモンに対して俺は助けようとする気力が一切なかった。ベルトにねじ込んだ拳銃でそれ、を撃った所で勝算がないと何故か解っていた。そうしているうちに化け物が色水がこぼれて出来た道をススス……とまるで床が水面かのようにこちらへ向かってくる。そしてその度にその色水は消え失せて、ジモンの座っている、多量の水たまりの所でそれ、は止まった。 「こぼしたな」 「ひい」 「戻さなければ、意味がない」 ぽこ。 ぽこ。 ぽこ。 ぽこ。 それ、は腰を抜かしているジモンの周りに湧わいた。最初に湧いたそれ、の他に四体。 白い、人間の歯を持った蛇のような化け物だ。 「こぼした」 「こぼした」 「もどそう」 「おまえの」 「なかに」 そう、異口同音に化け物たちは囁いた。ジモンの周りの色水が消えていく。そして、その蛇共は、しゅるる、とジモンの手足に巻き付いた。その胴体は長く、細く。地球では見たことのない生き物の動き方をしている。まるで……まるで、触手だ。 それ、に纏わりつかれたジモンの怖がり方と言ったらまるでホラー映画のヒロインのようでつい、笑いそうになってしまったがよくよく見ればその恐怖は本物で、狂ったようにジモンは叫び続けた。 「ああああ、うああああ!やめろ、はなせ、はなせええ!クドウ、助けてくれ、いやだああ!」
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