愚者の門番、賢者の聖杯

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「ああ、解っているさ」 そう言って俺は頷き、扉に手を当てて、少し引く。すると、まるで自分の一部のように門が動くのだ。これは、凄い技術だとか言いながら門の中に入ると。 そこは俺がいつも座っていた事務所の応接室だった。 思わず足が止まる。まさか。戻ってきたのか。そう思ったのと同時に、声がした。その声は俺の頭の中ではなく、目の前からだった。 「まさか、戻ってきたのか……?と思っているね?勿論ここは君が思っている場所ではない」 「じゃあここは」 「ここは【門】の中だ」 そう言って俺に微笑んだのは見覚えのない若い男だった。柔らかな物腰、日本人ではない金色の髪と白い色素の肌。服はよく解らないが、白い布のようなものを纏っていた。その男の瞳はなぜか眩しくて。 瞳の色が何かは解らない。 その男が俺に欲しいだろう?と俺が好んで吸っている煙草の新品のパッケージを俺に差し出した。 「大丈夫だ、危害を加える気はない。安心して話を聞くと良い」 「お言葉だが……断りもなく、手に何か描かれたぞ。これは危害なのでは?」 「ははは、なにを言うんだ。それは【栄誉】だ」 「栄誉?」 「そうとも。君はこの、門の門番として選ばれたのだ。おめでとう」 「おめでとうって、あんた」 「いいか、工藤清和君。これは実に栄誉な事だよ。この門は神の門なのだ」 「神の門、ねえ」 相槌を打ちながら俺は新しい煙草を取り出して、咥えた。あまりに突拍子のないことばかりでこれは何かのドッキリなのではないか、という気さえしてきたのだ。
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