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出会い
窓から見える琵琶湖は日光を強く反射し、僕の目を焼いた。目を閉じれば暗闇の中で緑の何かが浮遊する。瞼を開けても緑の何かはしばらく残存し、前に座る人の後頭部と重なる。
数学担当の先生が教室に来るまで、僕はその無意味な行為を3回繰り返した。優しく、しかし急ぎ足で廊下をたたく靴の音が聞こえてきたので、僕は目の回復に努めた。
チャイムが鳴るとともに女の先生が教室に入って来た。まだ緑の何かが目の前にあり、先生の姿がよく見えない。僕は光を遮るため、カーテンを閉めた。
しばらくして目が回復し、先生を確認できた。白いタイトスカートからすらりと伸びる脚、ピンクのカーディガン、かすかに膨らみのある胸、ずば抜けた美人ではないが、溌剌としてショートボブの似合う笑顔。なんて魅力的な人だ、と僕は思った。
先生は自己紹介を簡潔に終わらせた。チョークを黒板に滑らせて、「複素数」と書いた。端正な字は先生を象徴しているようだった。
一ヶ月前に彼女と別れて鬱蒼とした気分が続いていたけれど、たちまち相内先生に惹かれていった。
何が何でも付き合いたい。
僕はノートの字を見返して気が滅入り、これまでにない丁寧な字で板書を書き写した。
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