背徳のオメガ 3

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「お前はまだ、ちゃんと第二性に目覚めていなかった。これから本当に第二性に目覚め、俺以外のアルファのフェロモンを感じるようになった時、きっとお前は自分の思いの勘違いに気づくはずだ。そうなっても、一度お前を手に入れてしまった俺の中の悪魔はきっと、決してお前を手放さないだろう。力でねじ伏せ、うなじを噛み、この腕の中に閉じ込めてしまう」 そうなっても良かった。 無理矢理でもいい。 僕を兄の物にして欲しかった。 「俺がそんな葛藤をしている間も、お前は俺への思いを募らせ、兄弟だということに苦しんでいた。そんなとき、人魚姫の像を見たんだ。お前の苦しみが限界に来ていることを知った。その時思ったんだ。苦しみから解放してやりたいと。俺が思いを我慢すれば、お前は俺への勘違いの思いから開放される。俺が家を出れば、俺の劣情のフェロモンにあてられることも無くなり、俺への思いもいずれなくなるだろう」 あの頃、苦しんでいたのは僕だけじゃなかった。 兄は頭がよく、スポーツも出来てかっこよくて、両親もそんな兄を自慢の息子と思っていた。だけど、その笑顔の下で、兄もまた苦しんでいたんだ。 「もし結がオメガだったら、フェロモンで本当の家族ではないことが分かってしまう。だからその前に家を出たい。・・・俺はフェロモンに疎い両親をそう説得して家を出たんだ。これでお前は俺から開放されるだろう。だけど俺は、お前への醜い思いを捨てることが出来なかった。画面越しに見るお前は日に日にきれいになり、第二性に目覚めてからはさらにそれに磨きがかかった。お前がきれいになるのは、きっとアルファの恋人ができたからだろう。俺の知らないアルファがお前に触れ、抱いていると思うと俺は気が狂いそうだった」 僕に恋人がいた事なんてなかった。僕の思いはずっと兄に向いていたから。だけど、僕が画面越しに兄の苦しみに気づけなかったように、兄もまた、僕の思いに気づかなかった。 「お前が高校に入ったくらいから、父さんたちはお前に本当のことを打ち明けようと言っていたんだ。特に母さんはそれを望んでいた。家族を守るためにやっていることなのに、それで家族がバラバラになるのはおかしい。本当のことを知っても、結はきっと家族でいてくれる。そう言っていた」 両親もまた、僕のせいで心を痛めていた。 それが悲しい。 本当の子供のように育ててもらった。兄のフェロモンがなければ自分が本当の子供じゃないなんて疑うこともないくらい、兄とは分け隔てなく接してくれていた。だから僕も、二人が大好きだった。本当ならあのまま家にいて、もっともっと親孝行がしたかったんだ。 「お前のせいじゃない。全ては俺の劣情のせいだ。そもそも俺が家を出たのもそのせいだ。俺が帰らないのも。お前はとっくに俺達が家族じゃないことを知っていたはずなのにこんな茶番を続けていたのは、俺が耐えられなかったからだ。お前がいないのを見計らって帰った実家で、お前の残り香を嗅ぐだけで俺の中で衝動が身体を駆け巡る。なのにもし、本人を目の前にしたら・・・。俺にはお前を襲わない自信がなかったんだ」
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