背徳のオメガ 3

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それでももし、一度でも僕に会ってくれていたら、僕の思いが勘違いではなく、未だ兄への思いを抱いていることに気づいてくれただろうか。そうしたら、僕達は両思いになって、そして今頃家族で仲良く暮らしていけていただろうか。 もしもなんて考えるだけ虚しいだけだ。だけど、僕は考えずにはいられなかった。 「父さんたちの言うことは分かる。だけど俺にはそれが出来なかった。だから結婚することにしたんだ」 結婚という言葉に僕は兄を見た。 「結婚して俺が家庭を持てば、父さんたちの考えも変わるだろう。俺を呼び戻すことを諦め、結と三人で暮らしていってくれる。そしてその間に結も誰かと番になってくれれば、俺は結の香りを感じなくなる。だから俺は、当時付き合っていた彼女にプロポーズをした。嫌いではなかったが好きでもない女性だ。彼女は笑うと口元がお前に似ていたんだ。その柔らかい髪も。笑うと全体の雰囲気がお前に似ていて、ベータの彼女は余計な匂いもしなかった」 兄の横で幸せそうに笑っていた彼女は僕に似ていただろうか? 彼女は兄の思いを、知っていたのだろうか・・・? 「彼女への罪悪感がなかった訳では無い。その罪悪感は式が近づくにつれて大きくなり、友人が独身最後だと言って開いてくれた飲み会で俺は、その罪悪感を誤魔化すように酒を飲み、強かに酔っ払った。そして帰った部屋で・・・」 僕が待っていた。 「ドアを開けた瞬間から分かった。結の香り。でもこんなところにいるはずがない。だからこれは夢なんだ。酒で回らない頭でそう思い、ベッドに座っている結を見た時、俺のタガが外れた。俺の中の悪魔は俺のなけなしの理性をぶち壊し、俺を支配した。ずっと夢にまで見た結がいる。俺の腕の中で、切なげに身体を震わせている。俺は夢中で結を抱いたよ。バラバラに砕けた理性の欠片すら、これは夢だと判断した。だから思うままにしていいのだと。壊れてしまうかと思いながらも、夢だから壊れるはずがないと思い、ひたすら結に欲望を穿って本能のまま中に精を放った」 あの激しい夜を、僕は今も忘れない。 普段は優しく穏やかな兄が、ベッドの上であんなに熱く激しく変わるなんて知らなかった。 「夢だと思って欲望のままお前を抱いたのに、それでもお前のうなじを噛まなかったのは、理性の欠片のひとつがこれは夢ではないと分かっていたからだ。事の最中、俺は何度もお前のうなじを噛みたい衝動に駆られたのにそれを思い留まったのは、恐らくどこかでこれは夢ではないと分かっていたからだろう。だけど目が覚めたらお前はいなかった。痕跡すらない。それどころか、どこにもお前はいなくなっていた」 その時のことを思い出したのか、兄の身体が再び小刻みに震えだした。 「何度電話しても俺が出ないことに痺れを切らした父さんたちに起こされた俺は、その時初めて結が留学することを知ったんだ。そして連絡が取れなくなったことも。飛行機に乗る前に別れの挨拶をしようと電話したら、この電話は使われてないと言われ、慌てて結の残した留学先にも問い合わせたけれど、そんな者はいないと言われた。さらに引越し予定の住所を確認してもらっても、もちろん違う人が住んでいて、結はいなかった」 その時の両親を思うと胸が痛くなる。
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