背徳のオメガ 3

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僕はどれだけ兄を苦しめてきたのだろう。僕がしたことことで、自分が苦しむのは当たり前だ。だけど、兄にまでこんな苦しみを与えていたなんて・・・。 「俺の生活は仕事とお前を探すことだけだった。実家にも帰らず、会社に行っている以外は家でずっとパソコンで情報を探していた。会社の後輩だった彼女はあの後すぐに会社を辞めて、いろいろ噂もされたがそんなことはどうでもいいくらい、俺はお前でいっぱいだったんだ。だけど、一向に見つからない現実に俺は疲れてきていた。・・・4年経った頃だろうか。偶然彼女に会ったんだ。当然嫌われていると思った俺はそのまま立ち去ろうとしたのに、彼女は俺を呼び止めた」 4年・・・ずっと僕を探していてくれた。 「恨まれても仕方がないことをしたのに、彼女は疲れきった俺の身体を労り、あの頃と変わらぬ優しさで包み込んでくれた。俺はそんな彼女の優しさにすがってしまった。最低だろ?4年前に一方的に振り回した挙句簡単に捨てたのに、自分が弱っているからと言って彼女を抱いたんだ」 彼女は本当に兄を愛していたんだ。酷いことを言われても、何年経っても。そんな兄を許してしまうくらい、愛していた。 僕の行いは彼女の人生にも影響を与えてしまっていた。 僕は一体、どれだけの人に迷惑をかけたのだろう・・・。 「一度だけだったが、彼女はその一回で妊娠した。でも言わなかったんだよ、俺に。一人で生もうとしていたんだ」 妊娠の言葉に僕の心が痛くなる。 一人で生む覚悟がどれほどのものか、僕は知っているから。 「彼女の父親が俺のところに来て俺を殴ったんだ。当たり前だよな。結婚直前に破談にして彼女を傷ものにしたのに、今度は妊娠だ。でもそのおかげで俺は彼女の妊娠を知り、気持ちにようやく決着をつけることが出来たんだ」 兄の顔から苦悩が消えた。 「まるで憑き物が落ちたようだった。お前はまだ見つからない。生死すら分からない。だけど、もう探すのをやめようと思ったんだ。俺は確かにお前を好きだった。愛していたよ。でも、その気持ちがまだ続いているのかと言われれば、それは分からなかった。変わらず愛しているのかもしれない。だけど、手に入れることが出来なかったものに対する執着だったような気もする」 僕を見る兄の目は穏やかだった。 「現実としてお前はいない。けれど、あんなひどい仕打ちをした彼女は俺を許し、俺の子を身ごもって人知れず生もうとしている。そんな彼女を愛おしいと思った。彼女も子供も守ってやりたいと思ったんだ」
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