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新居に移った日は忙しかった。なんせその日に部屋を作らないと、寝ることも出来なくなるからだ。
時間指定で届く購入した家具と家電。それにアメリカから送った荷物が次々と届く。
家具家電は予め決めていた配置の通り置いてもらったので一人で動かすことは無かったけど、アメリカからの荷物はとりあえず一箇所に置いてもらったので、中身を確認しながら移動させるのが大変だった。一人の時はそんなになかったのに、やっぱり子供がいると荷物が多い。だって、もしかしたら使うかも・・・と思ったら処分できなくて・・・。
瑛翔は自分が動くと邪魔になると分かっているのか、部屋の隅で大人しくしていた。
本当は手伝いたいのに出来なくて、そわそわしてるのが見ていてかわいい。
「瑛翔、これを皆さんに渡してあげて」
僕はそんな瑛翔にお手伝いを頼んだ。業者の人達に飲み物を渡してもらうのだ。仕事をもらった瑛翔はうれしそうに顔を輝かせて、せっせとペットボトルのお茶を渡して回る。でもその時気がついた。瑛翔はお茶を渡す時、英語で話している。簡単に一言『どうぞ』と言ってるだけなので、業者の人たちもそのまま受け取ってくれるけど、普通の会話は問題なく話せるはずなのに。
気になったものの引越しに忙しく、その時は聞くことが出来なかった。
そんなこともありながらその日の荷物の搬入が終わり、一段落着いたとこで両隣と上下の部屋に引越しの挨拶に行った。その時はにこにこ笑ってはいたものの、瑛翔は言葉を発しなかった。
偶然?
それともわざと話さないのだろうか?
気になっても、それを本人に聞いてもいいのか迷ってしまう。
この引越しは幼い瑛翔にはかなりのストレスになっているのかもしれない。
その悩みをメッセージでアダムに相談してみると、すぐにアダムから電話が来た。
しばらくアダムは瑛翔と話をして、それから僕と代わった。
『エイトに日本語を話さない自覚はないようだ。ただ、自分は実は日本人だと知ってあの子の中でそれがまだ理解しきれていないのだろう。僕に何度も『えいとは日本人?』と聞いてきたよ』
僕が不用意に日本人だと言ってしまったことで瑛翔は混乱してるんだ。
僕は親なのに何してるんだろう。もっと瑛翔のことを考えて慎重に話すべきだったんだ。
『大丈夫。今はまだ少し混乱してるだけだよ。これから託児所に行って他の子と接すればすぐに戻るだろう。ユイトは悪くない。自分を責めてはダメだよ』
僕の心を読んだようにそう言ってくれるけど、僕は責任を感じてしまう。
『今は何もせずに見守ってあげるのがいいだろう。・・・君が責任を感じるなら僕もだよ。君を半ば無理やり日本に帰したのだから』
僕は最後のアダムの言葉にはっとした。
そんなことをアダムに言わせるなんて・・・。
僕はアダムにも申し訳なく思ったけれど、僕のことを思って言ってくれたことがうれしい。
「ありがとう、アダム」
僕はまだ答えを出せていない。それに対してアダムは何も言わずにただ待ってくれている。でもその間も僕と瑛翔のことを考えてくれていることに、僕の心は温かくなった。
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