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「こうしてまた、結と話が出来て良かった」
その言葉に僕も笑う。
「うん。僕も、こんなに話せるなんて思ってなかった」
最初はすごく怖かったけど、今は穏やかな気持ちで話せる。
兄の顔も穏やかだけど、その口元が少し引き締まった。
「結・・・すぐじゃなくていいから、実家にも顔を出してやって欲しい」
その言葉には、僕は即答できなかった。
両親に会いたいけど、何を言ったら・・・。
「会いづらいよな。でもさ、父さんたち、気づいてたよ。俺達のこと。だからあんなに、結に本当のことを話したがっていたんだ。ちゃんと話して、障害を取り除いて、晴れてお互いの思いを告げられるように。だけど、俺は結婚するといい、お前は留学すると言った。何も知らないふりをしていたけど、二人ともずいぶん心を痛めていたらしい」
それは寝耳に水のような話で、僕の頭は一瞬凍りついた。
知ってた?
僕の思いを?
兄のことも?
「なんだかんだ言って、親なんだよな。こっちが必死に隠していても、ちゃんと分かってたんだ」
僕はその言葉に血の気が引いた。
もしかして、僕がしたことも分かってる?
僕の考えが分かったのか、兄は苦笑いした。
「俺はさすがにそこまでは言ってないけど、もし子供を見ることがあったら分かるかもな。俺から見ても・・・似てるよな?」
誰に、とは言わなかったけど、瑛翔は兄に似ている。特に目元がそっくりだ。
「まあバレたとして、怒られるのは俺だけどな。親の意見も聞かずに我を通した挙句に結を追い詰めてしまったんだから。それにどんな理由であれ、アルファとオメガではアルファが悪い」
いや、アルファでもオメガの発情期のフェロモンには抗えない。
そう思っていると、兄は立ち上がった。
「そろそろ帰るよ。今日は本当に話せてよかった」
玄関に行こうとする兄を引き留め、僕は急いで名刺の裏にスマホの番号とメッセージアプリのIDを書いた。
「これ、僕の連絡先」
すると兄も同じように名刺に連絡先を書いて渡してくれた。
兄さん、課長になったんだ。
そこには『第二営業部 課長』の肩書きが書いてあった。
同じように名刺を見ていた兄も呟く。
「沢渡結翔」
僕の今の名前だ。
「沢渡姓にしたんだな」
「籍を抜いたらここに戻ったんだ。兄さんはなにか知ってるの?」
感慨深そうにずっと見ている兄は、僕の本当の両親を知ってるみたいだ。
「・・・逆にお前は知らないのか?」
不思議そうに言うけど、僕はただ養子だったことを知って、単純に籍を抜いただけだ。自分がなぜ養子になったのかなんて何も知らない。
「そうだよな。誰もお前には教えてなかったんだから、知らないよな」
一人納得したようにそう呟くと、兄は僕を見た。
「俺と結はもともといとこだ。結の母さんは俺の母さんの妹・・・つまり、母親たちが姉妹なんだ。仲の良い姉妹で、うちにもしょっちゅう遊びに来ていた。俺も良くかわいがってもらったよ」
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