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初めて聞く本当の親のことに、僕はなんだか他人事を聞いてるようだった。
「お前がまだ赤ん坊の時、乗っていた車が事故を起こして結の両親は亡くなったんだ。それで、母さんがお前を引き取った。養子に入れたのはお前がまだ赤ん坊だったことと、成長して一人苗字が違うことでいじめられないようにするためで、いずれは本当のことを話すつもりだったらしい」
何となく、僕の親はどこかにいるような気がしてたけど、もう亡くなっていたんだ。
でも不思議とあまりショックは受けなかった。
それだけ今の両親が愛情深く育ててくれたからだ。
不意に両親の顔が浮かんだ。
会いたい。
そして僕のしたことを謝って、今までのことにお礼を言いたい。
育ててくれてありがとう、て・・・。
そんな僕の頭を兄が撫でる。
触れられても、もう全然苦しくない。
「電話でもいいから、父さんたちに声を聞かせてやって欲しい。それだけでもきっと喜ぶから」
僕はその言葉に頷いた。涙がまた零れた。
それから僕は兄とマンションの前で別れ、会社に向かった。
会いたい。
アダムに。
今すぐアダムに会って伝えたい。
僕は急いで会社に着くと、エレベーターに乗り、秘書課の奥の社長室に向かう。
突然入って来た僕にその場の同僚は驚いていたけど、そんなのは無視して社長室に入った。ノックもなしに。そして、ちょうど外から帰ったのか、それとも今から出かけるのか、デスクの前に立っていたアダムにその勢いのまま抱きつく。
「ユイト?!」
驚きながらも僕の背に腕を回して支えてくれる。そんなアダムの首に僕は両腕を回してぎゅっと抱きついた。
目の端に驚いた神津さんが見えたけど、そんなの関係ない。
「アダム、僕をアダムの番にして」
その瞬間、アダムからぶわっと甘い香りが吹き出した。そのあまりの濃さにクラッとする。
「ユイト・・・今なんて?」
クラクラする香りの中、僕はもう一度アダムに言った。
「番にして。僕のうなじを噛んで」
今までの優しいだけじゃないその香りに酔いそうだ。
あぁ、やだ。胸がどきどきしてきた。それに身体が熱い。
「いいのかい?僕で。本当に?」
信じられないように言うアダムの耳に背伸びをして唇を寄せる。
「アダムがいい。アダムじゃないとだめ。アダムは嫌?僕が番じゃ」
するとアダムの香りが更に濃くなる。
アダムの香り・・・僕もう立ってられない・・・。
腰が砕け、足から力が抜けてへたりそうになった僕の腰をがっしり支えて、アダムは僕をデスクに座らせる。そして僕の目を間近に捉えると、唇を寄せてきた。
「間違いだと言っても、もう離さない」
その言葉に頷く前に、僕の唇はアダムによって塞がれた。
今まで紳士的に僕に接してくれていたアダムとの初めての口付けは、僕の想像よりもはるかに熱く、情熱的だった。キスの経験がなかった僕には刺激が強すぎて、それだけで気を遣ってしまいそうになる。
「ユイト?」
そんな僕の様子に気づいたアダムが心配そうに唇を離した。
身体が熱くて、震えが止まらない。
「僕・・・初めてで・・・身体が変・・・」
その言葉にアダムは目を見開いた。
「初めて?キスが?」
僕はそれに何度も頷いた。
するとアダムはデスクの電話を取った。
「ワタル」
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