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「わたしがよく頼むのはアジのなめろうですね。あと、かに味噌の甲羅焼き。味噌を食べ終えたあとの甲羅にお酒を注いで飲むと最高です」
「おお……!」
一弥が声を上げる。その瞳はきらきらしていて、見知らぬ場所を探検する子どもみたいだった。
(もっとクールな感じの人かと思ってたけど……。想像してたよりも、面白い人かもしれない)
そう思うと、目の前にいる一弥への興味が湧いてくる。もう少し、この人と話してみたいと渚は思った。
「一弥さんって、趣味はなんですか?」
「どうした、急に」
「だって、さっきの自己紹介ではそういうこと聞けなかったから。一弥さんの趣味は……好きなものはなんですか?」
「俺の好きなものか? それはもちろん、ぬ……」
「ぬ?」
「ぬ……ぬるぬると円滑に仕事を進めることだ」
「なんですかそれ」
「あとは、水族館に行くのが好きだ」
「へー!」
だから、イルカの話に興味を持ってくれたのか。渚は納得した。
「好きな水族館の生き物はなんですか?」
「カワウソとラッコが好きだ。イルカはもっと好きだ」
一弥の答えに、渚は思わず笑い声を上げてしまった。
「どうした?」
「いえ、意外にかわいいものが好きなんだなと思って」
そう答えると、一弥が驚いたように目を見開いた。かと思うと、なんだか気まずそうに目を逸らされる。
「……俺の話はいい。今夜は、渚、おまえの話が聞きたいんだ」
「わたしですか?」
「ああ。イルカの話をしているときのおまえは、とてもいい顔をしていた。もっと聞かせてくれ」
「そ……そんなこと言われたら、止まらなくなりますよ」
「かまわない。好きなだけ話せ」
「……一弥さんは物好きですね」
照れ隠しでそんなふうに答えたけれど、本当は少し嬉しかった。この人の前では、呆れられるんじゃないかとか、引かれてしまうんじゃないかとか、きっと考えなくていい。自然にそう思えた。
渚の話すイルカの話を肴に、二人は運ばれてきたお酒と料理を楽しんだ。
日付がまもなく変わるころになって、二人は居酒屋を出た。
「どの料理もうまかった。いい店だ」
満足そうな一弥の声に、渚も嬉しくなる。
「気に入ってもらえてよかったです」
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