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少しくすぐったいような気持ちで、一弥と並んで歩く。ライトアップされた噴水の美しい公園に来ると、彼はふと立ち止まり、渚を見つめた。
「今夜はおまえと話すことができてよかった」
「わたしも、一弥さんと話すの楽しかったです」
「そうか」
「はい」
「では渚、俺の女になれ」
「はい」
反射的にそう答えてから、はたと我に帰る。
「……ん? あの、今なんておっしゃいました?」
「俺の女になれと言った。おまえは『はい』と言った」
「言いましたけど……、あの、なんでそうなるんですか?」
「いま思いついたんだ。我ながらいいアイデアだと思っている」
(思いつきなんだ……)
「あの、申し出は非常にありがたいんですが、何もわたしじゃなくても、一弥さんとつきあいたい女の人はいくらでもいるんじゃないですか」
合コンの席で、一弥が女性たちの視線を集めていたことを思い出す。楽しくてつい渚ばかり話し込んでしまったが、あのまま合コンを続けていれば、一弥は他の女性のアプローチを受けていたかもしれない。
「確かに女には不自由しない。しかし、今まで見てきた女の中で、おまえが一番……」
一弥の深い色をした瞳が渚を見つめる。まっすぐな視線に、胸が勝手に高鳴った。
「一番……?」
「一番、面白そうな匂いがする」
「面白……!?」
予想していたのとかなり違う言葉に、渚は拍子抜けした。
「そこって、冗談でも『一番美しい』とか言うところなのでは」
「今までさんざん美しい女は見てきたからな。嘘はつけない」
「そうですか……」
「ああ。さんざん見てきた。美しいだけの女なら、な」
(あれ?)
一弥の表情がわずかに翳ったような気がした。けれどそれも一瞬のことで、すぐにまたじっと見つめられる。手を掴まれ、ぐいと引き寄せられた。
「あっ……」
頬に一弥の肩が触れる。しっかりとした一弥の腕が、背中に回されるのを感じた。
「ありがとう、渚。俺を選んでくれたことを後悔はさせない」
どこか満足そうな一弥の声が耳元で聞こえた。あたたかな両腕は、まるで大事なものを抱えるようにぎゅっと、渚の体を抱きしめている。
(うっかり返事しちゃっただけなんだけどな……)
とは思うものの――こんなふうに男性に触れられるのははじめてにも関わらず、不思議と嫌ではなかった。
(……まあ、いっか)
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