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どれくらいそうしていたのか、少し名残惜しいようなぬくもりを残して一弥の体が離れた。
「キスくらいしたいが、明日も仕事で朝が早いんだ。今日はこのまま送る」
「キスはいいんですが、そういえば、一弥さんってなんのお仕事されてるんでしたっけ」
「社長だ。アクロス社の代表取締役をしている」
「ああ、社長さんですか」
と答えてから、一弥の言った社名にものすごく聞き覚えのあることに気づいた。
「……って、アクロス!? いまアクロス社って言いました!?」
「ああ、そうだ。『アクロス立山マリンパーク』のアクロスだ」
「そ、それってつまり……」
「おまえの働いているマリンパークの親会社だ」
「う……ええっ!?」
場所も時間も忘れて、おかしな声を出してしまった。
「嘘ですよね」
「いや、まじだ。芹沢と親しくなったのも、マリンパークを買収する折に現場の話を奴からいろいろ聞いていたからだ」
「……ちょ、ちょっと頭を整理させてもらえますか。さっき、わたしと一弥さんは付き合う流れになりましたよね」
「ああ。なった」
「それってつまり、わたしは社長と付き合うってこと……?」
「そうなるな」
混乱する渚を前に、一弥は至極あっさりとした声で、そう答えたのだった――。
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