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(この人、ほんと見かけによらずかわいい動物が好きだなあ……)
つくづく意外に思うものの、不思議と一弥のそういうところは嫌いじゃなかった。
(むしろ、ちょっとかわいいかもしれない……)
渚は一弥に気づかれないようにこっそり笑った。
そうこうしているうちに二人の番になる。一弥がスタッフから受け取った固形の餌を見せると、水槽のアクリルに開けられた穴からカワウソが手を伸ばしてきて、器用に餌を掴む。カワウソの小さな手が一弥のそれに触れると、彼の瞳がぱあっと輝いた。
「渚、渚! カワウソが俺に触れたぞ!」
「はい。触れましたね」
「カワウソの手はぷにぷにしているんだな! かわいいな……!」
そう声を上げる一弥は、普段の引き締まった表情からは想像もできない、無邪気な笑顔だ。はじめて見る一弥のはっきりとした笑顔に、心臓のあたりがきゅうとする。
(うわ……。この人、こんな顔で笑うんだ……)
「ほら、渚もやってみろ」
そう言われてカワウソに餌をあげてみるものの、正直カワウソどころではなかった。胸がどきどきして、顔が熱い。こんな感覚ははじめてで、どうしたらいいかわからない。戸惑う渚をよそに、一弥は「ほら、目がつぶらでかわいいだろう」などと言いながら肩を寄せてくる。
「そ、そうですね……!」
「ん? 渚、顔が赤いぞ。どうした?」
そう一弥が顔を覗き込んでくるものだから、渚は余計に慌てた。
「いや、その……! か、カワウソを前にはしゃいでしまいました……!」
「そうか! 渚もはしゃいでいるのか!」
と、一弥が嬉しそうに言う。カワウソじゃなくてあなたの笑顔にはしゃいでましたなどと言えるはずもなく、渚はとりあえず頷いておいた。
カワウソとの触れ合いですっかりご機嫌な一弥とともに館内を回ったあと、昼食をとるために敷地内にある海上レストランに入った。海の見えるテラス席につくと、スタッフが注文を取りに来る。二人は一番の人気商品だというシーフードカレーをオーダーした。
ほどなくして注文したものが運ばれてきたので、揃って食事をはじめる。テラス席のせいなのか、それとも食事をする一弥の所作がとてもきれいだからなのか、食べているのは普通のカレーだというのに、なんだか高級なレストランに来た気分になった。
「一弥さんって、どうしてあの合コンに来たんですか?」
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